4 その他
4-1 政治家による事例
4-1-1999.12.13 大阪府知事事件
大阪府知事の選挙運動中に、候補者である現職知事が、アルバイトの学生運動員
に行ったわいせつ行為に対して、1,100万円の支払いが命じられた事例。
[裁判所]大阪地裁
[年月日]1999(平11)年12月13日判決《確定》
[出典]判例時報1735号96頁
[評釈等]水谷英夫『セクシュアル・ハラスメントの実態と法理』(信山社・2001)
[事実の概要]現職知事X男は、再選を目指す選挙の運動中、アルバイト運動員の大学生
A女に対して、選挙運動用の車内でわいせつ行為を行い、これに対して刑事告訴
したA女を虚偽告訴罪で逆告訴し、A女の提起した民事裁判では沈黙(自白の擬
制)することで反論の機会を与えられながらもこれを行使せず、他方で、A女に
反論の機会がない自己の記者会見と府議会においては一方的に自己の言い分を表
明し、A女の主張を「真っ赤な嘘」「でっちあげ」等と発言し、A女を誹謗した。
[原告の請求]1,500万円。
[判決の概要]1,100万円。「わいせつ行為により原告が被った精神的苦痛を慰謝するには
200万円が相当である」。「現職の大阪府知事である被告が、自己のわいせつ行為
の被害者である女子大生に対して、逆に虚偽告訴し、これに関連して意図的に虚
偽内容の記者会見をした上で、この内容を全国に報道させたことにより原告を大
衆の好奇の目に晒したという名誉毀損行為の極めて異常な態様に鑑みれば、これ
により原告が受けた精神的苦痛は、わいせつ行為それ自体によるものよりも甚大
であるというべきであって…精神的苦痛を慰謝するには500万円が相当である」。
「被告は、自己の高い知名度を利用して、原告には何らの反論の機会すらない記
者会見等の場において、原告を侮辱し非難する発言を繰り返すことにより原告に
対して著しい名誉毀損行為をし、右発言内容がマスメディアを通じて連日のよう
に全国に報道された。これにより原告が被った精神的苦痛を慰謝するには300万
円が相当である」。弁護士費用100万円。
[ひとこと]本件民事訴訟記録における原告の氏名・住所等の閲覧等の請求は当事者に限
るとした大阪地裁平成11年8月30日決定は判例時報1714号110頁。被告は刑
事裁判では強制わいせつ罪に問われ、懲役1年6月執行猶予3年の有罪判決が確
定した。本件原告の手記、田中萌子(仮名)『知事のセクハラ 私の闘い』(角川
書店・2001)218頁は、被告人が一部事実を否認しているのは自らを恥じている
からであろうと内心の謝罪の気持ちを慮る刑事判決について、「真実を言えない
のは人の弱さですか? 女性が恐怖から抵抗ができなかったり、声を上げられなか
ったという力の差での女性の弱さはなかなか認めないのに、どうして本当のこと
を言えないのが男の弱さだと簡単に擁護できるんですか!? ふざけるのもいい
かげんにしてもらいたいです。じゃあ私が真実だけをずっと言い続けてこれたの
は私が強いからですか? こんな理論、どう考えても間違っていると思います。私
は自分が弱い人間だからこそ、ここまでがんばってきたんです。セクハラがなぜ
起こるのかは弱肉強食の世界、つまり男性社会だからこそ生まれるもので、女性
の立場が圧倒的に弱いから、このような犯罪が多発しているんです」と批判する。