4 その他
4-1 政治家による事例
4-1-2018.11.6 加古川市職員事件(兵庫)
加古川市の男性職員である被上告人が勤務時間中に訪れた店舗内で女性従業員にわいせつな行為等をしたことを理由に、停職6月の処分を受けたことを違法だとして取消しを求めたところ、被上告人の請求を認容した原判決を破棄し、被上告人の請求を棄却した事例
[最高裁第三小法廷2018(平成30)年11月6日判決 裁判所ウエブサイト、裁判所時報1711号5頁、労働判例ジャーナル84号34頁、判タ1459号25頁、LEX/DB25449793]
上告人加古川市の男性職員である被上告人は、勤務時間中に訪れたコンビニエンスストアにおいて、女性従業員の左手首をつかんで引き寄せ、その指先を制服の上から自らの股間に軽く触れさせるというわいせつな行為等をした。なお、男性職員は、以前から市章の付いた作業服である制服を着用して、同店舗を頻繁に訪れ、女性職員らに不適切な言動をしており、それが原因で退職した女性職員もいた。
加古川市は被上告人に対し停職6月の懲戒処分をした。被上告人は、加古川市に対し、その取消しを求めた。
原審の大阪高等裁判所は、被上告人の請求を認容すべきものとした。
[判決の概要]
地方公務員法29条1項は、職員が同法等に違反した場合(1号)、全体の奉仕者にふさわしくない非行があった場合(3号)等においては、懲戒処分(戒告、減給、停職、免職)をすることができる旨定める。同法33条は、職員はその職の信用を傷つけるような行為をしてはならない旨定めている。
公務員に対する懲戒処分について、懲戒権者は、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をするか否か、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択するかを決定する裁量権を有しており、その判断は、それが社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に、違法となる(最高裁昭和52年12月20日第三小法廷判決民集31巻7号1101頁、最高裁平成24年1月16日第一小法廷裁判集民事239号253頁等参照)。
原審は、1従業員が被上告人と顔見知りであり、被上告人から手や腕を絡め取られるという身体的接触について渋々ながらも同意していたこと、2従業員とオーナーが被上告人の処罰を望まず、そのため被上告人は警察の捜査の対象にもされていないこと、3常習として同様の行為を繰り返していたとまでは認められないこと、4当該行為が社会的影響が大きいとまではいえないこと等を、本件処分が社会通念上著しく妥当を欠くことを基礎付ける事情として考慮した。
しかし、1について、従業員が笑顔で行動し抵抗を示さなかったとしても、客との間のトラブルを避けるためであったと見ることもでき、これを被上告人に有利に評価することは妥当ではない。2についても、事情聴取の負担や営業への悪影響等を懸念したとも解される。3については、被上告人の言動を理由の一つとして退職した女性従業員もいたことは、軽視することはできない。4についても、勤務時間中に制服を着用してなされたことであり、複数の新聞で報道され、記者会見も行われたことなどからして、市の公務一般に対する住民の信頼が大きく損なわれたというべきであり、社会的影響が小さいとはいえない。
以上より、市長の判断が懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又は濫用したということはできない。よって、原審の判断には、懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。
原判決を破棄し、第一審判決を取り消し、被上告人の請求を棄却した。(弁護士打越さく良)