4 その他
4-3 自衛官による事例
4-3-2017.04.12
航空自衛隊非常勤隊員が上官からセクハラ行為を継続的に受けPTSDを発症するなどし
たことによる慰謝料等を一部認容した原判決につき、慰謝料額を増額させ880万円の損
害賠償を命じた事例。
[東京高裁2017(平成29)年4月12日判決 労働判例1162号9頁]
[事実の概要]航空自衛隊A基地の期限付き非常勤隊員として採用された一審原告は、DVがあ
った前夫との事実婚を解消し、自らの収入だけを頼りに長女との生活を維持せざるを得な
い状況だった。妻子がある一審被告は、一審原告の上官であり、夜呼び出して、圧迫面接
のように私生活に関する質問を繰り返した。一審原告が自衛隊の非常隊員の試験を受験
した後、合否発表前に、一審被告は一審原告をドライブに連れて行き、強引にキスをしたり、
ラブホテルで一審原告が拒否するにもかかわらず性交したりした。
一審原告が試験に合格した後、一審被告は人事に関する自己の影響力を誇示するような
発言をした。その後1年半以上一審原告は一審被告から性的な関係を強要された。一審原
告は、PTSD等と診断され通院治療を受けるようになった。
一審原告は、一審被告からの継続的なセクハラ行為により、PTSDを発症するなど心身に不
調を来したとして、一審被告に慰謝料等1,100万円を請求した。
静岡地方裁判所浜松支部平成28年6月1日判決は、慰謝料30万円の限度で一審原告の請
求を一部認容した。一審原告が敗訴部分を不服として控訴した。
一審被告は、自衛隊内の調査を経て、妻がありながら不適切な異性関係を継続したという
理由で、減給1月10分の1の懲戒処分を受けた。
[判決の概要]一審被告の行為は、上官としての地位を利用し、一審原告らへの人事への影響力
をちらつかせ、母子家庭で収入の確保に敏感になっている一審原告の弱みにつけこんで性
的行為を強要し、継続したものであり、一審原告に対する違法行為である。しかも、一審原
告の精神状態を病的に悪化させ、自衛隊退職後の一審原告が生活保護を受けざるを得な
い状態に追い込み、それにもかかわらず被害に全く関心を示さずに欲望処理のために性的
関係を求め続けたもので、悪質である。関係解消のために一審原告が訴えかけたことを無
視した点でも悪質であるし、PTSDに現在も苦しめられており、被害も重大である。
一審原告が自らの意思で一審被告と性交渉に応じていたという一審被告の供述等は、採
用することができない。
心身の不調により職業訓練等も受けられず生活の危機に追いやられ、いまだPTSD症状に
悩み家事育児に多大な支障を来していることを考慮すると、一審原告の精神的損害に対す
る慰謝料は800万円が相当である。治療費通院交通費について具体的に認定する証拠は
ないが、相応の支出があったことは確実であり、これも考慮して慰謝料を800万円と算定し
た。
以上より、弁護士費用相当額80万円とあわせ、賠償額を増額させて880万円の限度で認
容した。(弁護士打越さく良)