5 敗訴の事例
5-1
職場で
5-1-1994.04.11 S靴事件(東京)
セクシュアル・ハラスメントを裏付ける証拠がはなはだ不十分であるとしてA女の
主張を否定するとともに、そうであるにもかかわらず被害を受けたとする内容証
明郵便を被告会社に送付することは名誉毀損にあたるとして、A女に30万円の支
払いが命じられた事例。
[裁判所]東京地裁
[年月日]1994(平6)年4月11日判決
[出典]労働判例655号44頁
労働経済判例速報1531号3頁
[評釈等]浅倉むつ子=今野久子『女性労働判例ガイド』36頁(有斐閣・1997)
水谷英夫『セクシュアル・ハラスメントの実態と法理』(信山社・2001)
[事実の概要]A女は、被告会社専務X男からセクシュアル・ハラスメント(執務中、いき
なり抱きつく、乳房に触れる等)を受けたとする内容を記載した内容証明郵便を、
被告会社に送付した。
[原告の請求]セクシュアル・ハラスメントに対して550万円。(被告の訴え:名誉毀損に
対して100万円)
[判決の概要]A女の慰謝料請求を棄却(未払い賃金請求は認容)。A女はX男に対し、30
万円支払え。「A女は、自己の主張を裏付ける証拠がはなはだ不十分であるにもか
かわらず、〔被告会社と被告X男に内容証明郵便を〕送付したものであるから、A
女には少なくとも過失があると言わなければならない」。
[ひとこと]セクシュアル・ハラスメントの事実が認定されず、逆に指摘した者が名誉を毀
損したとする判決として、5-2-1999.06.08も参照。