5 敗訴の事例
5-1
職場で
5-1-1998.07.29 Y香料会社事件(大阪)
上司X男には女性蔑視の傾向があるとみることも可能であるが、A女の行動には
矛盾があるので、セクシュアル・ハラスメントの事実を認定できないとされた事
例。
[裁判所]大阪地裁
[年月日]1998(平10)年7月29日判決
[出典]労働判例749号26頁
労働経済判例速報1686号27頁
[評釈等]水谷英夫『セクシュアル・ハラスメントの実態と法理』(信山社・2001)
[事実の概要]A女は、上司であるX男から「いい年をしてもったいぶるな」「フランス
の研修かて、体つかったんやろ」などといわれたので、怒って湯呑みの酒をかけ
たと主張した。A女には、部下の上司に対する言動としてみれば程度を超えてい
たものが種種あったために解雇された。
[原告の請求]地位確認、未払い賞与、慰謝料300万円。
[判決の概要]未払い賞与支払いは命じるが、セクシュアル・ハラスメント行為は認めら
れない。A女の、上司であるX男から「いい年をしてもったいぶるな」「フラン
スの研修かて、体つかったんやろ」「俺を紹介した調香師ともあったんやろ。そ
のくせ俺のいうことは聞けんとはどういうことや」などといわれたので、怒って
湯呑みの酒をかけたとの主張は、X男の供述よりは説得的であるが、「被告X男
からその陳述のような卑わいなことをを言われたのであれば、早々に退社すれば
よく、本社や食堂までついていく必要はないのであって、右陳述をそのまま信用
することはできない」。「〔被告X男の陳述書には〕女性がお茶くみをするのが
当然であるとの思考が窺われ、『原告は、セクハラの対象にしてもらえるほどの
女と思っていたのでしょうか。』などと記載し、女性蔑視の傾向があると見るこ
とも可能である」。「そのうえ…被告X男の…非協力的態度は、性関係を原告か
ら拒否された腹いせと考える見方も成り立たないわけではない」。しかしなが
ら「被告X男の…非協力的態度も、それだけでは原告主張のセクハラ行為を裏
付けるものではなく、そうであれば、いまだ原告主張のセクハラ行為を認める
に足りる証拠はないといわなければならない」。原告の言動は職場の秩序を乱す
ものであるから、解雇は有効。
[ひとこと]判決が被告に違法行為を認めない理由は、原告が「卑わいなことを言われて、
精神的な打撃を受けたといいながら、帰宅もしないで食堂までついて行っている
ということは、大きな矛盾である」からだという。挙証責任は原告にあるが、な
ぜ原告が主張した「被告の」言動にではなく、そのときの「原告の」反応に焦点
を当てて、被告の行為の存否を推断できるのであろうか。