敗訴の事例

5-1            職場で

--1998.12.25 T商事事件(大阪)

    社長X男の、部下A女に対する出張先での言動は、不謹慎ではあるが、不法行為

になるとまではいい難いとされた事例。

[裁判所]大阪地裁

[年月日]1998(平10)年1225日判決

[出典]労働経済判例速報17026

[事実の概要]社長X男と従業員A女との出張の際、旅館が一つしか部屋を用意しなかっ

たことから、X男がA女に対して「ここで一緒に寝ればいいがな」と発言した。

[原告の請求]未払い賃金・慰謝料として約554万円。

[判決の概要]未払い賃金等約304万円認容。ただし、X男の上記発言については不法行

為性を否定。「X男の発言は、たとえ冗談のつもりであったとしても、その場の

状況及び社長と一社員という両者の関係を考慮すると、極めて不謹慎な発言であ

り、これにより原告が不快感ないし不安感を催したことは容易に想像できること

であるが、前述したような経緯〔A女から抗議を受けると簡単にもう一部屋取っ

ており、その後部屋で二人だけで食事をした際も含め、同種の行為に出た形跡は

全くない〕 に照らせば、これが不法行為になるとまではいい難いというべきで

ある」。

[ひとこと]加害者にとって「冗談のつもりの攻撃」と、被害者にとって「冗談で済まな

い被害」とを、どのような基準で第三者(裁判官)が評価するか。「平均人」を

標準としているのであろうが、その「平均人」は、男性上司から攻撃された女性

部下、という属性およびその特性を有しているのだろうか。