5 敗訴の事例
5-1 職場で
5-1-2005.09.22 A総合警備保障会社事件(兵庫)
有期労働契約の従業員として雇用されたA女の主張するセクシュアル・ハラスメントがあったとの証拠は存在せず、会社がA女との新規労働契約の契約期間を従前よりも短期間としたことに人事権の濫用はなく、A女が右契約に承諾の意思表示をしなかったことから労働契約は期間満了により終了したとして、A女の従業員としての地位不存在が確認された事例
[裁判所] 神戸地裁尼崎支部
[年月日] 2005(平17)年9月22日判決 ≪確定≫
[出典] 労働判例906号25頁
[上訴等]関連裁判:5-1-2005.01.05
[事実の概要] 警備会社Xで有期労働契約の警備隊員として就労していたA女は、X社に対して、同僚から「体を拭いてやるから裸になれ」と言われるなどのセクシュアル・ハラスメントやいじめを受けていることや、上司・同僚への不満を訴えた。X社が調査したところ、そのような事実があったとは認められず、逆に、同僚らがA女の協調性のなさなどに不平不満をいだいていることが判明した。X社は、A女には引き続いて働いてほしいと考えているが同僚らと協調的な態度をとれるかどうかを判断するため、新規契約の契約期間を2ヶ月とする旨をA女に述べたが、A女から更改の意思表示は得られなかった。なお、それ以前の契約期間は、2ヶ月、1年、6ヶ月であった。A女とX社が話し合いを続けている間にA女の労働契約は期間満了となった。A女は期間満了の翌日以降はX社にまったく就労していない。その後も両者は話し合いを続け、A女、X社ともに労働局に助言を求め、紛争調停委員会によるあっせんも行われたが、セクシュアル・ハラスメント等の事実を認め謝罪をすることと6ヶ月間の労働契約の締結を求めるA女と、2ヶ月間の労働契約締結を求めるX社の主張に譲歩の余地がなく、あっせんは打ち切られた。X社がA女の従業員地位不存在確認を求めて提訴。
[原告の請求] 会社の主張(本訴原告):従業員地位不存在確認
A女の主張(反訴原告):従業員地位存在確認、未払い賃金、慰謝料300万円
[判決の概要] A女が本訴原告会社の従業員たる地位を有しないことを確認する。A女の反訴のうち、従業員地位確認請求を却下し、その余の請求はいずれも棄却する。「A女の本人尋問の結果を裏付ける証拠はまったく存在しない」。「X社においては、セクシュアルハラスメント問題の重要性を十分に理解し…従業員に対しても十分な各種広報活動がとられていることが認められ…初めてのA女との話し合いの際、X社のセクシュアルハラスメント相談の担当者…の同席を求めている」。「これらに照らすと…A女が主張するようなセクシュアルハラスメントがあったとまでは認められず、その存否は不明であるといわざるをえない」。
「X社が、A女に対し、新たな労働契約について2か月の期間を提示したことが、不当であるとすることはできない」。「セクシュアルハラスメントの事実は、X社の調査によっても認めることができなかった」うえに、「A女と他の同僚との協調は図られていないことの相当部分はA女の責めに帰すべき事由によるとされてもやむを得ない状態であった」。「X社の〔契約期間2か月という〕提示が、A女のセクシュアルハラスメントの訴えに対する報復的措置であったと認めるに足りる証拠はなく、これは…X社の専権に属する人事管理面での判断に基づくものであって…権利の濫用とすることもできない」。
X社の消極的確認請求に対するA女の積極的確認請求は、同一の法律関係にあり、民訴142条に抵触するため、却下を免れない。
[ひとこと] セクシュアル・ハラスメントの証拠がなく、有期労働契約の更改がなされなかった責任も会社側にはないとされた事例。
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