5 敗訴の事例
5-1 職場で
5−1−2010.08.26 K市事件
セクシュアル・ハラスメント等を理由とした懲戒免職処分を違法とした事例
[裁判所]大阪高裁
[年月日]2010(平成22)年8月26日判決
[出典]労働判例1016号18頁
[事実の概要]
市職員である控訴人は、女性臨時職員を含む複数に対するセクハラ行為等を理由に平成18年12月に懲戒免職処分(以下、「本件懲戒処分」)を受け、本件懲戒処分の取消しを求め提訴した。一審ではセクハラ行為の事実が認められ、本件懲戒処分は裁量の逸脱にあたらないとして請求が棄却されたため、控訴した事案である。
本件懲戒処分にあたって、特定の女性臨時職員を除き被害者名は匿名とされ、被害者の発言をもとに控訴人への事情聴取がなされている。
[判決の概要]
本件が懲戒免職処分という重い処分が問題となっていることからすると、特段の事情のない限り、処分の理由となる事実が具体的に特定されていなければ、防御の機会が与えられたことにはならず、これを処分理由とすることは許されない。
一口にセクハラ発言といっても、それまでの両者の関係や当該発言の会話全体における位置づけ、当該発言がされた状況等も考慮する必要があるのであって、控訴人がした性的な発言内容はもとより、その発言をした日時をできる限り特定し、発言を受けた相手方の氏名を示す必要がある。
しかし、調査報告書は、事情聴取の際の供述を録取した書面そのものではなく、調査委員会の認識をまとめたものにすぎない。また、調査報告書や事情聴取をした者の供述は、控訴人が特定の臨時職員以外の職員に対しても日常的に性的な内容を含む発言をしていた旨の心証を抱かせることはできたとしても、懲戒事由としてセクハラ発言を具体的に特定して認定し得るだけの証拠ではなく、その時期も3年以上の期間を示されているだけで十分な特定がされていない。
よって、控訴人のセクハラ発言を本件処分の理由とすることはできないといわざるを得ない。
[ひとこと]
控訴審では、セクハラ行為以外の非違行為も認められたものの、セクハラ行為を中心に据えて懲戒免職処分が選択されたものであるから、本件懲戒処分は裁量を逸脱しているといわざるを得ず、違法とされた。
懲戒免職処分が大きな不利益処分であることから、被処分者に対する手続保障を厳格に解した事案といえ、官民問わず多くの組織内の調査・事実認定体制に注意を喚起する判決である。(齊藤遼亮)