5 敗訴の事例
5-1 職場で
5−1−2014.3.28 A会社事件
セクハラ行為を理由とする出勤停止の懲戒処分につき、権利濫用により無効として、当該処分の有効性を認めた一審を取り消した事例
[大阪高裁2014(平成26)年3月28日判決 労働判例1099巻33頁]
[事実の概要]
Y社(被控訴人、一審被告)の従業員X1、X2(控訴人、一審原告。以下、併せて「Xら」とする。)は、Aらに対するセクハラ行為を理由として出勤停止の懲戒処分を受けた。Xらは、当該懲戒処分は、懲戒事由とされた前提事実もなく、手続の適正も欠き、懲戒事由との均衡を欠く不相当な重い処分であるとして、@懲戒処分の無効確認、A降格前の地位の確認、B懲戒処分による欠勤分の減額給与及び賞与分の支払い、C降格を原因とする減額給与分の支払い、D不法行為による各100万円の慰謝料請求等を求めた。一審は、本件各懲戒処分には客観的合理的理由があるとしてXらの請求を棄却。Xらが控訴した。
[判決の概要]
判決は、Xらのセクハラ行為は一部を除いて懲戒事由に該当するとはしたものの、「被控訴人が本件各処分の根拠として主張した事実(本件各懲戒事由)の全てが認められたり、懲戒事由に該当したりするものではなく、この点において、既に本件各処分はその基礎の一部を欠いている」とした。さらに、懲戒該当行為のうち一部の行為については「弁解の機会が与えられていないから、手続の適正を欠いている」こと、「控訴人らが、Aから明確な拒否の姿勢を示されたり、その旨被控訴人から注意を受けたりしてもなおこのような行為に及んだとまでは認められない」こと、「加えて…、被控訴人においては、セクハラ防止活動に力を入れていたとはいいうものの、一般的な注意以上に、従業員の個々の言動について適切な指導がされていたのか疑問がある」こと、「被控訴人ではこれまでセクハラ行為を理由とするものを含めて懲戒処分が行われたことがなかったことが認められ、控訴人らには、被控訴人が具体的にセクハラ行為に対してどの程度の懲戒処分を行う方針であるのかを認識する機会がなかった」ことを挙げ、「上記の点を考慮すると、事前の警告や注意、更に被控訴人の具体的方針を認識する機会もないまま、本件各懲戒該当行為について、突如、懲戒解雇の次に重い出勤停止処分を行うことは、控訴人らにとって酷にすぎるというべきであ」り、「本件各処分は、その対象となる行為の性質・態様等に照らし、重きに失し、社会通念上相当とは認められず、本件各処分につき手続の適正を欠く旨の控訴人らの主張について判断するまでもなく、権利の濫用として無効である」と結論付けた。
そして、Xらの請求のうち@〜Cの請求には理由があるとして認め、D慰謝料請求については、懲戒事由自体は認められることを理由に棄却した。
[ひとこと]
本判決では、2人きりの場面で浮気、女性遍歴、性癖、性器、性欲に関する話をしたことなど、多数の具体的セクハラ行為が認定されているものの、労働者にとっての重い不利益処分(懲戒解雇の次に重い出席停止処分)であるという面が強調された内容となっている。一部棄却された部分につき、Xらより上告受理申立されている。(弁護士 早坂由起子)