敗訴の事例

5-2           教育の場で

--1997.01.28 N短大研究所事件(秋田)

     研究所教授X男の研究補助員A女に対するセクシュアル・ハラスメントの事実が

否定され、逆にX男に対する名誉毀損として、A女に60万円の支払いが言い渡さ

れた事例。控訴審では逆転勝訴。

[裁判所]秋田地裁

[年月日]1997(平9)年128日判決

[出典]判例時報1629121

[評釈等]水谷英夫『セクシュアル・ハラスメントの実態と法理』(信山社・2001

[上訴等]仙台高裁秋田支部19981210日《確定》2-2-1998.12.10

[事実の概要]学会出張で宿泊したホテルにおいて、教授X男が研究補助員A女をいきな

りベッドに押し倒した。

[原告の請求]約334万円。(被告の訴え:550万円)

[判決の概要]A女の請求を棄却。A女はX男に名誉毀損の損害賠償として60万円支払え。

「原告が主張するような暴力的な強制わいせつ行為があったならば、反射的に助

けを求める声をあげたり、右行為から逃れるための何らかの抵抗があるのが通常

であるのに…被告のなすがままにされ〔ており、また原告は〕被告の手をつかん

で、やめさせようと思ったけれども、被告の手が汚らしく感じられて、手を引っ

込めたというのである。強制わいせつ行為にあった被害者は、無我夢中で逃れよ

うとするか、反射的に抵抗したりするのが通常であるし、また、畏怖心に終始し

てまったく抵抗できない場合も考えられる。ところが、原告が供述する右態度は、

そのいずれにもあたらないものであって、強制わいせつ行為の被害者の態度には、

およそそぐわない冷静な思考にもとづく対応であり、不自然であることは否めな

い」。

[ひとこと]裁判官の想像できる「通常」の性被害者の反応をとらない者は被害者として「

不自然」である(だから被害者ではない)、とする判決である。横浜清水建設子

会社事件(一審)と同様の思考法であるが、両事件とも高裁裁判官は「被害者の

行動は理解できる」として、原告の逆転勝訴を言い渡した。「被害者(女性)は

かくあるべき」との誤った思い込みをなくす裁判官教育は緊急の課題である。ワ

ーキング・ウイメンズ・ネットワーク(Fax06-6941-8700)『裁判におけるジェ

ンダーバイアスをなくすために――アメリカの司法教育に学ぶ』(2001)と、ア

リソン・ウェザーフィールド「アメリカ人弁護士のみた日本のセクシュアル・ハ

ラスメント」ジュリスト1079号・1080号(ともに1995)を参照。