5 敗訴の事例
5-2 教育の場で
5−2−2015.10.26 都立高校事件(東京)
都立高校の教員が女子生徒に対し不適切な内容の電子メールを送信したこと等を理由として、東京都教育委員会が懲戒免職処分をしたことが裁量権の範囲を逸脱又は濫用したもので違法であることを理由に取消請求を認容し、国家賠償請求法上の損害賠償請求は棄却した事例
[東京地裁2015(平成27)年10月26日判決 労働判例ジャーナル47号41頁、LEX/DB25541447]
[事実の概要]
都立高校の教諭X(1982年生)は、遅くとも女子生徒Aのいるクラス担任になった2011年4月からAとのメールのやりとりを始め、同年10月29日から同年11月14日までの間にAに対し829通のメールを送った。2012年の3年次もXはAのいるクラスの担任になった。同年12月、Aの母親が都教委の設置する学校経営支援センターにXのメールについて苦情を申し立てた。
2013年1月、校長がXに事情を聴取した際は、XはAに不適切なメールを送った事実を否認したが、後日副校長には「好きだ」という内容のメールを送ったことを認めた。校長はXに対し時系列で事実経過をまとめるよう指示する一方、3月まで教壇に立つことのないように措置を講じた。
同月、校長と副校長は、Aの父親と面談し、XがAに対して送信したメールが845通であることを確認し、性的な内容を含むメール6通の画像を記録した。
同年3月にAが卒業し、2013年度・2014年度、Xはクラス担任となり、授業も受け持った。
2014年5月、都教委はXに対し、同年7月末まで学校経営支援センターにおいて研修することを命じ、Xは研修を受けた。
同年7月14日、都教委は、Xに対し、地方公務員法33条(信用失墜行為の禁止)及び同法32条(法令等及び上司の職務上の命令に従う義務)違反を理由に、都公立学校教員を免ずる旨の処分をした。免職処分の理由は、Aと膨大なメールの送受信をしたこと、Aにネックレス等を買い与えたり校内で現金1万円を渡したりしたこと、男子生徒の間でXとAが交際しているという噂が広がる事態を招き、交際発覚後女子生徒の保護者に不信感を与え、2013年1月から3月までAが登校できない事態を招いたこと、事情聴取において虚偽の供述を行ったこと等14件の非違行為をあげた。
同年11月、Xは本件訴訟を提起した。東京地裁は、2015年1月、本件訴訟一審判決の言渡しまで、本件免職処分の行為を停止する旨の決定をした(被告は即時抗告したが、東京高裁は抗告を棄却した)。
[判決の概要]
1 非違行為の存否
Xは「大好きだよ」「ずっと抱き締めていたい」等の内容のメールをAに送ったことについて、いずれもAの求めに応じ、不安を和らげ、高校に通い続けることができるようにするためであり、恋愛感情に基くものではなかったと主張したが、判決は、恋愛感情に基く、あるいはそのように誤解させるものであり、不適切な内容であるとした。その件を含む14件の非違行為はいずれも認められるとした。
2 裁量権の範囲の逸脱又はその濫用
公務員に対する懲戒処分については、「懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の上記行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して決定することができ、懲戒権者が裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものと認められる場合に違法となるものと解される。」(最高裁第三小法廷昭和52年12月20日判決及び最高裁第一小法廷平成2年1月18日判決)
性的な内容を含む不適切なメールの送信は都の処分量定からすると「停職」が相当である。上記メールの送信が行われたのは、約3週間という比較的短期間に限られていること、自主的に不適切な内容のメールの送信を止めたこと、Xに研修の成果が上がらなかったなどの事情もないこと、成人になったAがXが懲戒免職になることを望まないと証言したこと等を踏まえれば処分量定とは異なる特に重い処分をすべき事情は見当たらない。XがAが両親から虐待されていると考えAを助けるため止むを得ずしたと主張したことについては、仮にAに働きかけが必要だとしても組織的な対応をすべきであるとした上で、処分量定が想定する非違行為と比べて特に重い処分をすべき事情はないとした。以上より、本件免職処分は社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものであるとして、懲戒処分取消請求を認容した。
3 損害賠償請求
違法な実質的な取調べ、執拗な退職勧奨、研修等により苦痛を受けたと主張したが、判決はいずれも違法性を認めず斥けた。
(弁護士打越さく良)