判例 働く女性の問題
1 賃金、昇進・昇格

1−2000.11.20 商工組合中央金庫事件
事務職として採用された女性がコース別人事制度の導入により総合職に移行した後の窓口補助業務への配置転換は男女差別と認められた判例
[裁判所]大阪地裁
[年月日]2000(平成12)年11月20日判決
[出典] 労働判例797号15頁
[事実の概要]
労働者一部勝訴(双方控訴係争中)
原告女性は被告金庫に昭和47年「事務職」として採用され、昭和62年コース別人事制度の導入により「総合職」になったが、女性あることを理由に、低い資格に据え置かれたとして、差別がなければ到達していたであろう資格にあることの地位確認と差額賃金相当額などを請求した。また、2人の男性上司が、女性であることを理由とする違法な査定を行ったとして、この2人に対して、違法な査定により受けた精神的な損害について慰謝料などを求めた。
[判決の要旨]
地位確認の請求を斥けたが、平成4年度の人事考課と平成5年の窓口補助への配転は女性であることを理由とした不当な差別的取扱いであり、人事権の乱用であるとして、被告に慰謝料200万円の支払いを命じた。
「……被告金庫においては、前述の被告金庫の総合的な裁量的判断である人事考課に基づき、被告金庫が決定するものであり、被告金庫による昇格決定の意思表示がなければ、昇格の効果は生じないから、原告が総合6級の地位にあることを認めることはできない。
この点原告は、男女雇用機会均等法を根拠とするが、これは企業に対する努力規定に過ぎないから根拠とならない。また、原告は、労基法4条により、被告の違法な考課の部分は無効であり、その雇用条件の空白は、男性総合職の標準者のそれをもって充てられるべきだとも主張するが、労基法4条は賃金に関する男女差別を禁止する規定であり、本件のような昇格における男女差別に直接適用することができるものではなく、また、仮に同条、あるいは同法13条の適用を認め、原告の現在の職務の等級の格付が無効であるとしても、同法13条は、無効となった部分の基準を同法の中に求めており、原告が主張する男性総合職の標準者をもって充てることができないのはもちろんのこと、基本的には労働者に対する職務の格付は、被告金庫の裁量によるものであるから、無効となった部分に対応する基準を一義的に同法の中に求めることはできず、原告の右主張もとりえない。」
「……被告金庫の原告に対する平成4年度の人事考課は、男女差別という公序良俗に反し、違法な裁量権の濫用であったといえる。また、原告に対し「窓口補助」を発令したことも男女差別であって違法というべきである。したがって、これら被告金庫の違法な行為により、原告が経済的あるいは精神的に損害を被った場合には、被告金庫は、少なくとも不法行為に基づき、原告が被った右損害を賠償する責任を負う。」
上司二名のした査定が差別的なものであったとしても、第二次評定者にすぎないとしてこの二人も被告金庫にも賠償責任はないとした。
[ひとこと]
総合職内の女性差別(配置・昇格差別)を認めた初めての判例。少数の女性が男性並以上に猛烈に働いている総合職だが、実際には、総合職女性の約6割が「同期男性と人事管理上の差がある」としている(21世紀職業財団調査、2000年)。今回の判決は、企業の根強い性別役割分担意識に一撃を与えるものである。ただし、判決が、原告に「男性と同等の能力」の立証責任を負わせたのは、非常な困難を強いるもので大問題。(KY)。
[ふたこと]
事件ではお茶くみの問題も1つの争点となっている。上司から「お茶を頼まないと入れないだろう、言われなくとも入れるべきだ、原告にはお茶を頼みにくい雰囲気がある。そう思わせるあなたに問題がある」と言われたことに対し、原告は「女性の役割を果たしていないという発言そのものよりも、女性ということでいくら成果を上げても低く人事考課されていることに強い精神的なショックを受けたものであ」るとして、「発言そのものによる精神的損害」を認めなかった。今の均等法で言えば、これらの発言は明らかなセクシュアル・ハラスメントであるが。