判例 働く女性の問題
1 賃金、昇進・昇格

1−2001.3.28 住友化学工業事件
昭和40年頃にとられた男女別雇用制度は、当時の社会常識からして違法とはいえない。またコース転換試験の際も少数の女性が合格していることから、男女差別的な運用があったとは認められないとされた判例。その後、2004年6月29日大阪高裁で和解
[裁判所]大阪地裁
[年月日]2001(平成13)年3月28日判決
[出典] 労働判例807号10頁
[事実の概要]
昭和40年前後頃に同時に入社した同学歴の男性労働者と異なる採用区分で採用された高卒女性労働者3人が、同時期同学歴入社の男性労働者より低い処遇を受けており、賃金に格差があるとして提訴した。
[判決の要旨]
昇進や賃金での男女格差はあったことは認めたが、不合理な採用区分の設定は違法になることもあると一般論で述べつつ、専門職に転換する機会があったことや、当時の役割分業意識、女性の早期退職の傾向、母性保護規定の存在があるために、高卒女性を一般職にのみ採用したことが、当時の公序良俗に違反するとまではいえないとしている。また転換するための推薦制度について、少なくとも文言上は女性を不利益に取り扱うものではないし、運用実態についても少数ではあるが女性も合格しているのであるから、男女別推薦運用があるとは認められない、とした。
「昭和30年代から昭和40年代ころは、未だ、男子は経済的に家庭を支え、女子は結婚して家庭に入り、家事育児に専念するという役割分担意識が強かったこと、女子が企業に雇用されて労働に従事する場合でも、働くのは結婚又は出産までと考えて短期間で退職する傾向にあったこと、このような役割分担意識や女子の勤務年数の短さなどから、わが国の企業の多くにおいては、男子に対しては定年までの長期雇用を前提に、雇用後、企業内での訓練などを通じて能力を向上させ、労働生産性を高めようとするが、短期間で退職する可能性の高い女子に対しては、コストをかけて訓練の機会を与えることをせず、女子を定型的補助的な単純労働に従事する要員としてのみ雇用することが少なくなかったこと、女子に深夜労働などの制限があることや出産に伴う休業の可能性があることなども女子を単純労働の要員としてのみ雇用する一要因となっていたこと、社会一般の意識としても女子を危険有害業務やこれに隣接する業務に配置することへの抵抗が強かったことなどが認められる。
原告らは、長期勤続を希望する女子も少なくなかった旨主張するところ、確かに、昭和30年代から昭和40年代にかけては、いわゆる高度経済成長期にあって、女子の就業意識やその就業構造も変化した時期であり、長期勤続者も次第に増加していたとはいいうるが、我が国全体としての意識構造としては前述のとおりであって、企業においてもこれを無視できる状況にはなかった。
むろん、このような男女の役割分担意識等は現在では克服されつつあり、もはや一般化できなくなってきているし、女子の労働に対する考え方も多様化して女子の勤続年数も次第に長期化してきているから、現時点では、被告が36年制度の前提とした女子労働者一般に対する認識やそれに基づく男女別の採用方法が受け入れられる余地はないが、原告らが採用された昭和40年前後ころの時点でみると、被告としては、その当時の社会意識や女子の一般的な勤務年数等を前提にして最も効率のよい労務管理を行わざるをえないのであるから、前記認定のような判断から高卒女子を日常定型業務である一般職務にのみ従事する社員として採用したことをもって、当時の公序良俗に違反するとまでいうことはできない。」