判例 働く女性の問題
1 賃金、昇進・昇格

1−2015.3.26 T工業事件(金沢)
男女差別による賃金格差を認めたが、訴訟提起の日から過去3年分のうち発生した賃金差額分を残して時効消滅を認めた事例
[金沢地裁2015(平成27)年3月26日判決 労働判例ジャーナル40号16頁、LEX/DB25540059]
[事実の概要]
原告は、被告(T工業株式会社)に1987年契約期間の定めのない労働者として雇用され、本訴提起後の2012年に定年退職した女性である。
被告は、2002年6月ころまでに、本給の賃金表を総合職と一般職とに分けて設定する賃金制度(コース別雇用制)を採用した。
原告は、コース別雇用制導入時から定年退職するまで、一般職として処遇された。
[判決の概要]
(1)被告が原告に総合職の賃金を支払わないことの違法性について
「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取り扱いをしてはならない」と定める労働基準法4条は、「性別を理由とする賃金差別を禁止した規定であり、使用者が男女別の賃金表を定めている場合のように、男女の賃金格差が生じており、かつ、それが性別の観点に由来する(その他の観点に由来するものとは合理的に考えにくい)ものと認められるときには、男女の労働者によって提供された労働の価値が等しいかを問うまでもなく、同条違反を構成するものである。そして、この理は、賃金表に男性や女性といった名称が用いられていない場合であっても、実態において男女別の賃金表を定めたのと異ならない態様で複数の賃金表が適用されているときにも同様にあてはまると解すべきである。」
被告において、コース別雇用制を導入するに当たり、総合職は従前の男子、一般職は従前の女子を指す旨の通達が社内で発せられたこと、本訴提起後の2013年に総合職の女性従業員が採用されるまで、被告の男性従業員は全員総合職、女性従業員は全員一般職であったこと、合理的なコース転換の制度も用意されていなかったこと(用意されたのも本訴提起後)、原告の業務内容が一般事務の範疇にとどまるものとはいえなかったことなどから、本件コース別雇用制における総合職と一般職の区別は、実態において、性別の観点によりされてきたものと認定した。
業務遂行能力の評価という観点からも総合職と一般職の振り分けがなされたとの被告の主張については、コース別雇用制の導入時に、被告において原告の業務遂行能力の程度を検討した証拠はない等として、斥けた上で、本件コース別雇用制は、男性を総合職に、女性を一般職に振り分けるものであり、実質的に男女別の賃金表が適用されていたものとして、労働基準法4条に違反し、少なくとも被告に過失が認められるとした。
(2)消滅時効の成否について
・被告の不法行為により、各月の賃金の支払期日が到来する都度、損害が発生する。したがって、被告が平成24年2月、消滅時効を援用する意思表示をしたことにより、本訴提起日から過去3年のうちに発生した分を残して、原告の被告に愛する損害賠償請求権は消滅した。
・被告が消滅時効を援用するのは信義則に反するとの原告の主張については、「原告が本訴を提起するまでに、被告が原告の権利行使を妨害していたことを示す具体的事情は何ら認められない」等として斥けた。
(結論)
不法行為に基づく損害賠償請求として328万円(年齢給差額198万円、慰謝料100万円、弁護士費用30万円の合計)及び遅延損害金のほか、雇用契約に基づく賃金請求(6万672円)、労働基準法114条に基づく付加金請求(6万672円)、雇用契約に基づく退職金請求(101万6,266円)を認めた。