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2 配置転換
2−2000.12.1 ケンウッド事件
東京都目黒区の本社から東京都八王子市の事務所への異動を命令された3歳の保育園児をもつ共働きの女性が育児に保育に支障が生じるとして異動を拒否、長期間出勤しなかったことを理由とする停職および懲戒処分を適法とした判例
[裁判所]最高裁
[年月日]2000(平成12)年12月1日判決
[出典] 労働判例774号7頁
[事実の概要]
東京都目黒区にある会社の技術開発部企画室で庶務の仕事に就いていた女性が、会社から、八王子に同会社の製造ラインへの配転命令を受けた。品川区で夫と3歳の子どもと暮らしていた女性は、子どもの保育園への送り迎えに支障が生じ、二重保育をするにも経済的に到底不可能な状態であって、心身の負担がきわめて重くなることから、配転命令に従わなかった。その後、第2子の妊娠が判明して、ますます配転命令に従うことは不可能になったが、会社は、命令に従わないことを理由にこの女性を解雇した。女性は、配転命令は業務上の必要もなく、また人選についても合理性がなく、会社の配転命令権の濫用による者で違法・無効である、したがって解雇も違法・無効だとして提訴した。
[判決の要旨]
女性がこの異動によって受ける不利益は甘受すべき程度を著しく越えていないとして、請求は認められなかった。
第一審、第二審とも、この女性の訴えを認めなかったが、最高裁も、「……本件異動命令には業務上の必要性があり、これが不当な動機・目的をもってされたものとはいえない。また、これによって上告人が負うことになる不利益は、必ずしも小さくないが、なお通常甘受すべき程度を著しく超えるとまではいえない。したがって、他に特段の事情のうかがわれない本件においては、本件異動命令が権利の濫用に当たるとはいえないと解するのが相当である。」と述べて、一,二審の判断を維持した。
この最高裁判決には、以下のような補足意見が付されている。
「近時、男女の雇用機会の均等が図られつつあるとはいえ、とりわけ未就学児童を持つ高学歴とまではいえない女性労働者の現実に置かれている立場にはなお十分な配慮を要するのであって、本判決をもってそのような労働者であっても雇用契約締結当時予期しなかった広域の異動が許されるものと誤解されることがあってはならないことを付言しておきたい。」
[ひとこと]
この最高裁判決は、人事ローテーションによって全国転勤が予定された労働者に対する配転命令事件に適用されてきた「甘受しがたい著しい不利益」を蒙る配転命令は濫用として許されないという判断基準をそのまま低賃金の女性労働者にも及ぼしたという点で、いままでの最高裁判例の枠組みさえ逸脱しており、到底認できない。補足意見はそうした批判をも意識して付されたものと考えられる。配転命令については、労働者に厳しい判断を行ってきた裁判所であるが、これは、数年サイクルで全国を転勤して回る裁判官の生活意識が影響したもので、もっと人間の温かみにふれる司法裁判がなされるようにするには、裁判官の処遇についても見直す必要がある。(NM)
[ふたこと]
「朝の殺人的ラッシュアワーの時間帯に長時間かけて子連れ出勤することはほとんど不可能であり、かといって、二重保育も転居も労働者と子どもに与える負担は測りしれないほど大きい。このような労働者の困難な生活実態を裁判官たちは理解しているのだろうか。」(浅倉むつ子「司法におけるジェンダー・バイアス」法律時報73巻7号87頁)
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