判例 働く女性の問題
4 母性保障

4−2002.3.13 I学園K幼稚園事件
内縁の夫との間で妊娠した教諭に対する退職強要、解雇は均等法8条違反とされた判例
[裁判所]大阪地裁堺支部
[年月日]2002(平成14)年3月13日判決
[出典] 労働判例828号59頁
[事実の概要]
被告学校法人I学園が経営するK幼稚園に勤務していた原告女性教諭と被告幼稚園とのあいだの労働契約を合意で解約してはおらず、また、被告学園による原告の解雇も無効であるとして、原告が労働契約上の権利を有することの確認および同労働契約に基づく未払い賃金の支払いを求めた。同時に、被告園長から、妊娠中絶を迫られたり、退職を強要されたりしたこと等について損害の賠償を求める事案である。
[判決の要旨]
「……、原告は、7月6日に被告園長から、暗に中絶を勧められ、7月26日に中絶ができない旨を返答したのに対して、園児のことやクラス運営についても無責任であると非難され、産前休暇等の取得が困難であることを告げられた上で退職を勧められたのであって、このような被告園長による一連の発言は、原告に退職を一方的に迫っていると評価されてもやむを得ないものである。
さらに、前記認定によれば、妊娠したことが無責任である旨非難され、責任を果たすよう強く求められ、やむなく夏季保育のために出勤した原告は、以上の経緯で肉体的・精神的苦痛を受けている状況下で流産したという女性としてたえがたい事態に陥ったにもかかわらず、被告園長は退職届の提出を執拗に求め、退職を強要した上、結局、解雇したことが認められる。
以上によれば、被告園長による上記の一連の行為は、原告の妊娠を理由とする中絶の勧告、退職の強要及び解雇であり、雇用機会均等法8条の趣旨に反する違法な行為であり、被告園長は不法行為責任(民法709条)を免れない。」
「原告は、被告園長による一連の不法行為により、一時は中絶を考えるとともに(原告本人)、その後も、妊娠状態が良好ではない状況下で被告園長から退職を強要され、胎児を流産した後も、退職届の提出を執拗に求められるとともに、解雇を通告されたものであり、これによって、原告が著しい精神的苦痛を受けたことなど、本件の一切の事情を考慮すると、原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料の額は250万円と認めるのが相当である。」
[ひとこと]
判決は妥当である。妊娠を理由に退職を強要するなど、いまどきの経営者かと驚くが、これは職場が教育現場であること、原告が未婚であることが、大きな理由となっていたと思われる。
判決で事実経過を読むとさらに唖然とする。原告が正式職員になるきっかけは、前任者(A子さん)がやはり妊娠をきっかけに退職に追い込まれたせいである。被告園長は、A子さんが就任後2ヶ月で妊娠したのを激しく叱責、なぜ園児のことを考えて避妊を含めた自己管理ができなかったかとプライバシーを全く無視して非難している。そしてA子さんの両親を呼びつけた上、出身大学にまで通知、担当者に謝罪させるなど、女性労働者を自立した人間と見ていない。
また、原告に対しても妊娠が判明、切迫流産などのため、医者から絶対安静を命じられているにも関わらず、妊娠を軽率であると非難し、暗に中絶を迫るなど精神的な圧迫を加えている。その一方で退院後1月半の原告に夏季保育に従事するように要求している。これに従った原告は結局この後すぐに流産しているが、被告園長および被告園には、母性保障、女性の人権擁護の姿勢が全くない。
 
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