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4 母性保障
4−2016.4.19 介護サービス会社事件
被告会社との営業所で介護職員として就労していた原告が、営業所所長からマタハラ及びパワハラを受けた等として、所長と会社に慰謝料と未払賃金を求めたところ、請求の一部が認容された事例
[福岡地裁小倉支部2016(平成28)年4月19日判決 労働判例ジャーナル52号29頁、LEX/DB25542660]
[事実の概要]
原告Xは、2009年ころ、介護サービス等を事業とする被告会社Aに期間を定めて雇用され、その後も雇用継続されて、介護職員として就労していた。被告Bは、Aの従業員であり、2012年以降、D営業所の所長を務めていた。
2013年8月、XはBに妊娠したことを報告し、同年9月、Bと面談し、重たいものが持てない等として業務の軽減を求めた。さらに、同年12月、Xは夫とともに、Aの九州北圏本部長らと面談し、業務の軽減を求めた。同月、Xは産婦人科医師から、切迫早産のため、安静・加療を必要とする都の診断を受けた。同月以降、出勤日はXと九州北圏本部長との話し合いにより決められることになった。同年8月から12月までの勤務時間は1日8時間から10時間であったが、2014年1月以降は4時間程度となった。
[判決の概要]
本件は、Xが被告Bが職場の管理者として妊婦であったXの健康に配慮し、良好な職場環境を整備する義務を負っていたにもかかわらず、Xが求めた軽微な業務への転換をせず、また勤務時間を一方的に短縮したり(Xは時間給であった)、無視するなどマタニティハラスメント及びパワーハラスメントをして、上記義務を怠ったとして、被告Bに対しては不法行為責任に基づき、被告会社Aに対しては、労働契約上の就業環境整備義務に反したとして、債務不履行に基づき、連帯して500万円の損害賠償金及び遅延損害金、さらには時給を990円ないし1,020円で計算すべきであったにもかかわらず,被告会社Aは減額した賃金しか支払わなかったとして、未払賃金32,814円及び遅延損害金を求めた事案である。
1 被告Bの配慮義務違反等の有無
@面談時の発言
2013年9月の面談の目的については、原告の勤務態度が真摯とはいえない面があり、創意工夫する必要があるという指導であったもので、違法ではない。しかし、妊娠を理由とした業務の軽減の申し出は許されない(「妊婦として扱うつもりはないんですよ」)等の発言は、必ずしも原告に肯定的でない評価を前提としても、感情的な態度とあいまって、原告に対して、妊娠を理由に業務軽減等の要望をすることが許されないとの認識を与えかねず、相当性を欠き、配慮不足であり、全体として社会通念上許容される範囲を超えており、使用者側の立場にある者として妊産婦労働者である原告の人格権を侵害するものである。
A業務軽減措置
被告Bは原告から妊娠した旨の報告を受け、上司から妊婦の健康に配慮した業務内容の変更を指示されたにもかかわらず、1か月以上経過した2013年9月になって初めて原告から話を聞いた。しかしその後も具体的な業務内容の変更を決定して指示することはなく、同年12月まで原告や他の職員の自主的な配慮に委ねるのみであった。確かに被告Bは原告に、再度医師に対しできる業務とできない業務を確認して申告するように指示をしているが、面談時の言動には違法なものがあり、そのため原告が萎縮していることからすれば、指示をして1か月以上原告から申告がないのであれば、被告Bにおいて原告に状況を再度確認するなどして、職場環境を整える義務があった。以上より、被告Bにはこの点でも職場環境を整え、妊婦である原告の健康に配慮する義務に違反した。
B2014年1月から原告の労働時間を1日4時間程度としたこと
被告Bの措置が一方的であったことは否めないが、原告が労働の軽減を求めていたこと等も踏まえれば、違法とはいえない。
2 被告会社Aの責任
@使用者責任
被告Bの言動は、被告会社Aの事業の執行として行った者であるから、被告会社Aは使用者責任を負う。
A就業環境整備義務違反
被告会社Aは雇用契約に付随する義務として妊娠した原告の健康に配慮する義務を負っていたが、被告Bから従業員たる原告の妊娠の報告を受けながら、被告Bに具体的な措置を講じたか否かについて報告を受けるなどし、被告Bを指導することなく、再度原告から申し出を受けた12月になってようやく業務軽減等の措置をとったことからすれば、同月以前の対応は、就業環境整備義務に違反したといえる。
3 損害額
被告Bの言動は違法であったが、嫌がらせ目的があったとはいえないし、業務内容を変更しなかったのは、原告の申告がなかったからでもあることなどから、慰謝料は35万円が相当であるとした。
4 未払賃金の請求
原告は業務別時給の説明を受けておらず、合意を否認し、また業務別に時給が異なることが不合理であると主張したが、原告と被告会社Aとの間の雇用契約書兼労働条件通知書には、業務別時給が明記され、原告が署名押印の際に異議や疑問を述べたとの事情もない。原告が業務別時給を認識していなかったとは推認できない。また業務別時給が不合理ともいえない。よって、未払賃金の請求には理由がない。
以上より、被告Bに対する不法行為責任、被告会社Aに対する使用者責任及び債務不履行責任に基づき、連帯して35万円の損害賠償請求金及び遅延損害金の限度で原告の請求を認めた。
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