7 パートタイム労働と派遣労働

7−2010.2.25 Tリサーチセンターほか事件
X女がY2社での就労中に、Y3社からの出向社員Bにセクシャルハラスメントを受けたとして提起したY2社及びY3社に対する損害賠償請求につき、Bの行為の違法性を認め、Y2社は損害を賠償するべき立場であるとしたが、Bの件につきY2社とX女間に和解の成立及び金銭的賠償責任を追及しない旨の確認がされているとして、Xの請求を棄却した事例
[裁判所]大津地裁
[年月日]2010(平成22)年2月25日判決
[出典]労働判例1008号73頁
[事実の概要]
図
Y1社及びY2社は、Y3社の100%子会社である。訴外A社は、労働者派遣事業等を業とする会社であり、Y3社グループに労働者を派遣していた(ただし、Y3社グループ以外の他の一般企業への派遣が全体の約58%を占めていた。)。
平成14年9月、X女は、A社の派遣スタッフとして登録し、平成16年4月1日からY2社で就労していた。平成17年6月頃から、Y3社の正社員であり当時Y2に出向していたBが、X女に対して、@プライベートな事柄について度々質問をしたり、Aトイレ、更衣室の前、自販機の前などでX女を待ち伏せてつきまとったり、B通勤時間、出社時刻、退社時刻等についてしつこく質問したり、C一緒に帰ろう、飲みに行こう等と言ったり、D勤務時間中にX女の側に寄っていって身体をすり寄せたり、E会議室でX女の隣に座ろうとしたりした(以下、「本件セクハラ行為」という。)。X女の訴えかけにより、Bは他の職場に異動となったが、X女自身もA社から労働者派遣契約を中途解約されそうになり、最終的に、Y2社の社長はじめ関係者がX女に正式に謝罪した。平成18年6月、X女はY2社での派遣就労を再開したが、X女とY2社との間では、セクシャルハラスメントの対応状況について確認・フォローの場が設けられるなどしていた。
その後、X女は、平成19年4月24日、A社から、同年5月31日の契約期間満了をもって契約を終了する旨の通告を受けた。これに対し、X女が上記通告の撤回を求める団体交渉を申し入れるなどの経緯を経た後、Y2社及びA社が、A社とX女との間に労働契約上の権利義務が存在しないこと等を求める労働審判を申し立てたが、労働審判法24条1項により終了し、訴訟手続に移行した(訴訟の途中で、A社は、Y1社に吸収合併された。)。他方、X女は、Y3社からY2 社に出向していた社員によりセクシャルハラスメントを受け、X女がY2社に救済を求めてもしかるべき対応をとらず、返ってX女を解雇するなど不当な扱いをしたなどと主張して、Y2社及びY3社に対して、使用者責任(民法715条)又は職場環境配慮義務違反に基づく債務不履行若しくは不法行為(同法709条)に基づき、各自慰藉料300万円等を求めた。
今回は、セクシャルハラスメントに関する部分のみを抜粋して取り上げる。
[判決の概要]
請求棄却。
裁判所は、Bの本件セクハラ行為等につき、社会通念上相当として許容される限度を超え、X女の人格権を侵害するものとして、全体として違法の評価を受けること、及び、本件セクハラ行為につき、Y2社は使用者責任に基づきX女が被った損害を賠償すべき立場にあることを認めた。
しかしながら、本件セクハラ行為につき、X女とY2社との間で、Bを異動させる、Y2社責任者がX女に謝罪する等の和解が成立したこと、さらにその後、X女がY2社での就労を再開し、Y2社の社長はじめ関係者がX女に謝罪していること等に照らせば、上記和解が成立するまでのBのセクシャルハラスメント及びこれに対するY2社の対応については、上記和解により、X女はY2社に対し、金銭的な賠償を含む一切の責任を追及しないということが当事者間で確認されていたものと推認される、として、X女のY2社に対する損害賠償請求を否定した。
また、Y3社は、Y2社出向中のBに対する指揮命令権を有していなかったとして、Y3社の使用者責任を否定した。さらに、Y3社がY2社に対して職場環境配慮義務を負っているとは言えないとした。
[ひとこと]
セクシャルハラスメント行為の存在を認めながら、その後の企業と請求者とのやりとりから、金銭的な賠償を含む一切の責任を追及しないという和解が成立していた事実と推認し、セクシャルハラスメント行為に関する慰藉料請求を認めなかった。(川見)