8 その他

8−2002.11.1 W会(看護学校修学資金貸与)事件
本来本人が負担すべき費用を使用者が貸与し、一定期間勤務すればその返還債務を免除するという契約であれば労基法16条に違反しないが、使用者がその業務に関し、技術者養成の一環として使用者の費用で修学させ、修学後に労働者を自分のところで確保するために一定期間の勤務を約束させる契約であれば、労基法16条に違反するとされた事例
[裁判所]大阪地裁
[年月日]2002(平成14)年11月1日判決
[出典] 労働判例840号32頁
[事実の概要]
医療法人である原告が、訴外栗岡学園が経営する看護学校に入学した被告Aおよび被告Dに対して入学時に貸与した修学資金(入学金、授業料など)の返還を、また原告の経営する病院で勤務していた被告Dに対し、賃金の過払があったとしてその過払分の返還をそれぞれ求めた。
[判決の要旨]
「使用者が労働者に対し、修学費用等を貸与した際の、一定期間就労した場合には貸与金の返還は免除するが、そうでない場合には一括返還しなければならないとの合意は、形式的にその条項の規定の仕方からのみではなく、貸与契約の目的、趣旨等からして、同契約が、本来本人が負担すべき修学費用を使用者が貸与し、ただ一定の期間勤務すればその返還債務を免除するというものであれば、労働基準法16条に違反するものではないが、使用者がその業務に関して技術者の養成の一環として使用者の費用で修学させ、修学後に労働者を自分のところに確保させるために一定期間の勤務を約束させるという実質を有するものであれば、同法16条に反するものと解される。また、退職等を理由とする貸与された修学資金の返還を定めた規定が、いわば経済的足止め策として就労を強制すると解されるような場合は、そのうような規定は、同法14条にも違反するというべきである。」「使用者が労働者に対し、修学費用等を貸与した際の、一定期間就労した場合には貸与金の返還は免除するが、そうでない場合には一括返還しなければならないとの合意は、形式的にその条項の規定の仕方からのみではなく、貸与契約の目的、趣旨等からして、同契約が、本来本人が負担すべき修学費用を使用者が貸与し、ただ一定の期間勤務すればその返還債務を免除するというものであれば、労働基準法16条に違反するものではないが、使用者がその業務に関して技術者の養成の一環として使用者の費用で修学させ、修学後に労働者を自分のところに確保させるために一定期間の勤務を約束させるという実質を有するものであれば、同法16条に反するものと解される。また、退職等を理由とする貸与された修学資金の返還を定めた規定が、いわば経済的足止め策として就労を強制すると解されるような場合は、そのうような規定は、同法14条にも違反するというべきである。」
「……本件貸与契約は、将来原告の経営する病院で就労することを前提として、2年ないし3年以上勤務すれば返還を免除するという合意の下、将来の労働契約の締結及び将来の退職の自由を制限するとともに、看護学校在学中から原告の経営する病院での就労を事実上義務づけるものであり、これに本件貸与契約締結に至る経緯、本件貸与契約が定める返還免除が受けられる就労期間、本件貸与契約に付随して被告A及び被告Dが原告に提出した各誓約書(〈証拠略〉)の内容を合わせ考慮すると、本件貸与契約は、原告が経営する病院への就労を強制する経済的足止め策の一種であるといえる。したがって、以上によれば、本件貸与契約及び本件連帯保証契約は、労働基準法14条及び16条の法意に反するものとして違法であり、無効というべきである。」