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8 その他
8−2015.9.18 S会社事件(東京)
女性アイドルグループの一人に対してマネジメント会社等交際禁止条項に違反したとして損害賠償を請求したところ一部認容された事例
[東京地裁2015(平成27)年9月18日判決 労働判例ジャーナル49号2頁、LEX/DB25531456]
[事実の概要]
タレントのマネジメント等をすることを業とする株式会社Sは、2013年、被告Y1(契約当時15歳)と専属契約を締結した。その際、Y1は、Sから「私生活において、男友達と二人きりで遊ぶこと、写真を撮ること(プリクラ)を一切禁止致します。発覚した場合は即刻、芸能活動の中止及び解雇とします。」「異性の交際は禁止致します。ファンやマスコミに発覚してからでは取り返しのつかないことになります。」等の記載のある規約を受領した。
Y1はその後Y1を含め少女6人のアイドルグループに参加した。Sと契約してタレント等に対する教育や経理の管理等をする株式会社Aが本件グループについてもSとタレント共同運営契約を締結し、グループのレッスン等を実施した。グループの活動期間は2013年7月から10月であった。
2013年10月初旬、Y1はファンと称する男性とラブホテルに入った。男性はホテルの室内でY1と二人でいる様子を鏡越しに撮影した。当該写真データをグループの他の少女gが入手した。gは、SとAにgの異性交遊を確認された際に当該写真データを見せた。SとAは、本件グループを解散した。
SとAは、専属契約に違反する行為によりグループを解散せざるを得なくなり損害を被ったとして、Y1とY1の親権者父Y2に対し損害賠償金237万8000円及び遅延損害金の連帯支払いを求めた。
[判決の概要]
1 Y1の債務不履行責任及び不法行為責任について
・交際禁止条項の効力及び解釈
Y1とY2は、グループの活動開始後も交際を継続していたメンバーがいたこと等から、交際禁止条項は死文化していたと主張したが、交際を継続していたメンバーがその事実をSとAに隠していたこと等から、死文化していたとはいえない。
文言からして、交際がファンやSとAに発覚したことが交際禁止条項の違反に当たることは明らかである。
・不法行為の成否
Y1とY2の主張の通り、異性とホテルに行った行為自体は直ちに違法行為とはならない。しかし、Y1は当時本件契約等を締結してアイドルとして活動しており、交際が発覚する等すればグループの活動に影響が生じ、SとAに損害が生じうることは認識可能であった。本件交際に及んだことは、不法行為を構成する。
2 損害の有無及び額
経費相当額全額が損害であるとのSとAの主張については、交際の発覚前の費用であるとして斥けた。
他方、グループの解散により将来の売上げの回収が困難になったとして、逸失利益は一部認められるとした。
SとAが立ち上げた他のユニットの信用が毀損されたとする損害賠償の請求には理由がないとした。
3 交際と損害の因果関係
「本件グループは女性アイドルグループである以上、メンバーが男性ファンらから支持を獲得し、チケットやグッズ等を多く購入してもらうためには、(略)メンバーに対し交際禁止条項を課すことが必要であったとの事実が認められる。これに反する被告の主張は採用できない。」
写真が既に一部のファンに流出していたことから、本件交際が広く世間に発覚することでグループやSとA等の社会的イメージが悪化する蓋然性が高かったと認めるのが相当である。以上より、交際発覚とグループの解散との間の相当因果関係を認めた。
4 過失相殺
グループの活動中、SとAがY1に対し交際禁止条項について注意・指導したことはうかがわれない。
交際禁止条項は死文化したとまでは認められないものの、遵守させようと十分な指導監督をしていたとも認められない。それは、運営管理上の過失である。
SとAが職業的にアイドルユニットを指導育成すべき立場にあること、Y1が「当時未だ年若く多感な少女」であったことなどを踏まえ、過失割合はSとAが40、Y1が60とするのが相当である。
5 Y2の監督者責任
Y1は当時通常の15歳の未成年者が有する事理弁識能力を有していたことは明らかであるとして、Y2は監督義務者等(民法714条1項)にあたらないとした。
結論として、Y1に、Sに対し22万6800円、Aに対し43万1819円及びそれぞれ遅延損害金を支払うよう命じた。
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