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女友だち 木村栄
爪楊枝一本の幸せ

 「大きなシンポジウムの裏方をした最初の日、スタッフ用にまとめてとったお弁当を食べたら、爪楊枝がついてないの。私、爪楊枝がないとダメな人だから、楊枝、楊枝って騒いでいたら若い人にケイベツの眼で見られちゃった。年をとるとそういうことになるんですね、だって。若さって残酷ねえ」
 確かに若い時は不要だった爪楊枝、歯に隙間ができたり滑らかさがなくなったりすると必需品になってくる。
 Nのいいたいのはその先だ。
 「そのお弁当、若い彼女のお好みじゃなかったのか、翌日は自分だけコンビニ弁当買ってきたの。で、ハイこれ、Nさんの欲しかったものでしょうって、ついてた爪楊枝をくれたのよ。カンゲキしたわよ。今の若い人、結構気遣いできるのよねえ、見直したワ」
 Nは、好きな友だちについては、何に関心を持っているのか、目下の悩みは何か、食べ物の好みからクセに至るまで実によく知っている。ちょっとした言葉の端々から零れ落ちる些細な情報をしっかり頭に入れておくらしい。
 いつだったか、Nに黄色いバラを贈られて「わあ嬉しい、私の大好きな花なのよ、これ!」と歓声を上げたら、シブイ顔で怒られてしまった。
 「やあねえ、知ってるわよ。わざわざあなたの好きな花を選んだのに、まったく張り合いのない人ねえ」
 そんな風だから、私が彼女の好みに無頓着だとひどくハラを立てる。
 「私は生クリームは嫌いだって言ったでしょ、何度言ったらわかるのよ! いったい何年付き合ってるわけッ」
 大事な友だちのことなら、何でも知りたいと思うのが当たり前、無頓着なのは関心がない証拠だと、いうわけだ。
 だが、複雑なNの好みを覚えていてくれる人はそうはいない。皆、私と似たり寄ったりなのだ。で、今回のように、さほど親しいわけでもない若い人が、しっかり「爪楊枝」を覚えていてくれたりすると、もう幸せいっぱい、天にも昇る心地になるのだ、と。
 さて、今日は我が家でする新年会。
 Nの席に、これだけはしっかり覚えた、N好みの紫色のグラスと紫色の箸袋をおいた。これで私も少しは見直して貰えるかしらん。
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