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女友だち 木村栄
元気薬

 肩こりには按摩が一番だが、頭の凝りには他愛のないボケ話が効く。
 私も、考え事が煮詰まってくると時々電話雑談をする。
 「知り合いの元某大コーラス部員が近くで歌うんだけど、行く?」
 「うーん、六四才のカルテットか。老けっぷりのいい男性ならいいけど。あの、何て言ったっけ、007役者の何とかみたいに、さ」
 「えーと、確か最初はジェームス・ボンドだった」
 「そうか。初代はジェームス・ボンドで、二代目は、と。思い出した、ショーン・コネリーだ!」
 「そうそう。あの老けっぷりはいいよね。若い時よりずっと色気がある」
 そして、何日か後、北朝鮮での007の撮影を巡るテレビニュースの断片が耳に入ってきた。ジェームス・ボンド役の誰それが云々、と。
 ん?
 ジェームス・ボンドって役の名前じゃない! 007のことでしょうが。あの人ったら、もう!
 「ハハハ、見た見た。おかしくてお腹の皮が捩れちゃったわよ」
 「あなたはいいわよ。悔しいのは、私まであなたのボケにひっかかったってことなのよう」
 これで頭の凝りがほぐれるのだから安いものだ。しかし、互いのボケを「元気薬」にするには年季がいる。
 暑い盛りに汗みずくで彼女の家を訪ねて、つめたーい「熱さまシート」に迎えられたことがある。時間を見計らって冷蔵庫で冷やしておいてくれたのだ。玄関でペタンとおでこに張ってくれた時の蘇生感は忘れられない。
 こんな気遣いに加え、「聞いて聞いて。こんなことキムラさんにしか話せないもの」で始まる毎度の失敗談。
 電車の中で席を譲られて喜んで座ろうとしたら隣のお年寄りのことだったとか。すごいラツシュで斜めになったまま揺られていたら、いつの間にか空いた車内で「いつまでよっかかってんだよ!」と怒鳴られたとか。
 そんな付き合いを重ねて、暖かく笑い合える関係をつくっておく。
 それが互いのボケ話を元気薬に変える錬金術の秘策なのである。

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