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女友だち 木村栄
名無しのつき合い

 「街と遊んでる」、つまり街づくり活動に熱心な友人に聞いた話である。
 市の配食サービスを受けている一人暮らしのお年寄りがいる。週五日お弁当を届けるのは同じ街のボランティアだ。年の開きは十歳ほどか。
 初対面の時から気が合って、毎回玄関先でひとしきり世間話をする。それだけの関係で、三月もしたらすっかり仲良しになり、誰よりも気の合う友だちになっていた。
 二年後、お年寄りが亡くなった。そしてその一ヶ月後、後を追うようにしてボランティアさんが亡くなった。
きっと寂しかったのね、すっかり気落ちしてたもの、と二人を知る街の人たちは噂した。
 お年寄りは、ボランティアさんの名前も住所も電話も知らなかったという。 
私にも、一人、立ち話の友がいる。 買い物帰りに街の通りで声をかけられた。前に住んでいた町の小学校で子ども同士が同じクラスだったという。 私の記憶にはなかったが、言われてみれば、という程度には思い出した。二十年もたって別の町の隣人として出会うなんて奇遇ですね、と言い、簡単な近況報告をし合って別れた。
 買い物に行く道が同じせいか、その後も時々会うようになった。時には電車の中で隣り合わせたりもする。会えばその都度立ち話をする。子どもが結婚した、宅建主任の資格をとった、入院した、孫が生まれた、夫が定年になた、近頃何だか虚しくて・・・。
 最近はやりの続き漫画の中吊り広告みたいに、いつの間にか、立ち話にもストーリーができた。
 「顔色よくなったわね」
 「この間、言われたでしょ、過ぎたことくよくよ考えるのは性格だと思い込んでるけど、訓練で変えられるって。やってみたのよ、意識して。それが効いたみたい。又、教えてね」
 じゃあね、と手を振って別れれば今度はいつ会えるのか。「又」の機会はあるのかないのか。
 住所も電話もフルネームも知らない女友だち。電話番号を聞きたい誘惑に駆られる時もあるが、敢えてしない。 意志の外にある人生の妙味を、そのまま味わっていたい気もするのだ。

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