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女友だち 木村栄
古友だち

 最近、又、眠りが悪くなった。
 寝付くことはできるのだが、三時間ほどで起きてしまう。トイレに行き、横になって目をつぶっても、もういけない。草木も眠る丑三つ時。イヤなことばかり考える。不安に悶々として時計をみると十分もたっていない。何度か繰り返したあげく、起きあがって歩いてみたり、また寝てみたり。
 仕方ない、安定剤のお世話になるか。とまあ、これが毎晩続く。
 不眠だけではない。寝起きの気分は最悪だし、日中も家にいるとよく落ち込む。原因はわからない。頭の中に暗い不安の回路があって、そこにちょっとした気がかりのタネを放り込むと、たちまちぼわっと膨らんだ「不安」の綿菓子ができあがる、という具合なのだ。落ち着かなくて苦しい。何も手につかない。
 そんなある日、Nから電話があった。 待ってましたとばかりボソボソと窮状を訴える。返ってきた第一声は、なんと「ああ、安心した」である。
 「?」
 Nの、風変わりな反応には慣れている私だが、これは想定外だ。「うッ」と詰まったまま言葉が出ない。
 「それがキムラさんなのよ、いつも不安だウツだってぼやいている。やっとあなたらしくなって安心したわ。今まで引っ越しの興奮でハイになりっぱなし。心配してたんだ、実は」
 Nは、ハトに豆鉄砲の私を後目に、「今日の感じはキムラさんそのもの、やっと平常に戻ったんだ、懐かしいわあ」と、言葉をついだ。
 驚いた。
 そういうことなのか。
 外側から親しく私を見ている友の目を通して私を見直すと、「なるほど」と言えなくもない。
 そうか、これが私なのか。じゃあこれでいいんだ。そう思ったら何だか拍子抜けしてしまった。「不安」の綿菓子が急速にしぼんでゆく。
 長年の古友だちは、これだから有り難い。私より私をよく知っていて、時に、舞い上がった足をつかんで地上に引き戻してくれる。
 かけがえのない存在って、こういうのを言うんだろうなあ、きっと。
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