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女友だち 木村栄
ばら風呂

 前日いやなことがあって、ひどく寝覚めが悪い。何とかしないと、ウツ気分で一日を棒に振ることになる。
 大抵は、起き出して日常の暮らしが始まると次第に薄れて行くのだが、それでダメな時はNにこぼす。共感、慰め、暖かい批判などを子守唄代わりに聞いていると、霧が晴れるようにウツが散っていく。
 だが、この日はそれも効かなかった。午後遅く近くの友人がきて、「これ、使ってみて」という。渡されたのは、花の部分だけ摘んだ大小さまざま色とりどりのバラが、こんもりと盛られたプラスチックの容器。
 「水耕栽培のバラよ。お風呂に入れるの。出る時に掬って冷たいシャワーを浴びせて、ラップをかけて冷蔵庫に入れておけば明日も使えるわ」
 これはこれはと押し頂いて、早速、バラ風呂を試す。
 黄色、オレンジ、濃いオレンジ、白、ピンク、淡紅色、紫、薄緑のバラが芳香を放ちながらゆらゆらと揺れ浮かぶ、豪奢な浴槽に手足を伸ばした。
 なんと贅沢な、なんと芳醇な時間か。次々に流れ寄ってくる花々に顔を埋めて、微妙に違う香りをかぎ分けていると、私の人生も満更捨てたものではないと思えてくる。
 たっぷりと水気を含んで冷蔵庫で冷やされたつぼみは、傷む気配もなく一夜ごとに湯の中で張りのある花びらを開いていく。その美しさが捨てがたくて、二回のところを四回も楽しみ、最後の一夜は枕もとにおいて眠った。
 ウツは雲散霧消していた。
 「ここ一番」の特効薬にしたい。友人にも贈りたい。そう思って、お礼のついでに、どこで手に入れたのかと聞いてみた。
 「いただきもののお裾分けよ。母の介護や仕事で疲れた時なんかに下さるの。私も知りたいけど、いつでもお金で買えるとなったら折角の好意への感謝が薄まるようで、申し訳なくて聞けないのよ。だからあなたも、神サマの贈り物だと思って、ネ」
 そうだった。
 私の神サマは、いつでも女友だちの姿を借りて、必要な時に必要な手を差し伸べてくれるのである。

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