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女友だち 木村栄
勇気を貰う

 大学時代の親友Oが電話をくれた。
 夫のいる九州と実家の大阪の会社を往復して社長業をこなすOとは、昨夏以来、会っていない。
 開口一番、娘の翻訳本の文章を褒めてくれた。仕事と腰痛と子育てで潰れそうな私を見かねて、赤ん坊だった娘を一ヶ月も預かってくれたOは、未だに娘のことを気にかけてくれている。
 次は、近況報告だ。
 「先日河原でバーベキューをしたの」
 元気な母上と、医学部教授を退官して病院の顧問を務める夫と、出産で実家に帰っている翻訳家の娘と、エリート技術者の息子夫婦と、絵に描いたような幸せな家族の集い。又おノロケね、と口まで出かかった、その時である。
 「それで冷えたのか、背中が痛くて」と、それを合図に、胃、骨、肝臓、胆嚢、膀胱に、かつて患った乳がんの転移が見つかった、と話を継いだ。
 そうだった。昨夏、マーカーの数値が急上昇しているのに原因がわからなくて、セカンドオピニオンを求めて上京したのだと言っていた。
 「結局見つからなかった。でも、いずれ出てくる。今度は歳も歳だし、この忙しさではとても闘えないわ」
 だから夫婦で大阪に引き上げ、社長交代の準備にとりかかったと言うOの口ぶりに何の不安も感じなくて、忘れるともなく忘れていたのだった。
 転移の凄まじさに声もない私を慰めてくれたのは、気丈なOの方である。
 「化学療法しか手がないけど、小さいし、皆乳がんの転移だから一度に叩ける。大丈夫よ、まだ死なないから、私。やりたいことがあるんだもの」
 そのために、化学療法の合間の動ける時間をフルに使って残務処理に飛び回っているのだという。
 かつて一度も何からも逃げることなく、幸せに向かって真っ直ぐ生きてきて、今又困難な戦いに挑もうとしているOに、私は背中を叩かれた。
 難病を二つ抱え、薬の副作用に悩まされてぐずぐずと怠け心のついた心身に力が満ちてきて、勇気が湧いた。
 よし、私も頑張る。
 「残務が済んで娘の出産から解放されたら、Sも誘って温泉に行こう」
 うん、そうしよう。きっと、必ず。

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