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アフガンの歌 喜多悦子
ジュネーブ、そしてアフガン(3)

人道条約の入り口と出口
 スイスに関連してどんな人を思い浮かべるだろうか。
 赤十字関連大学にいる私ならずとも、ソルフェリーノの戦いとアンリ・デュナンをセットで思い浮かべられる方もあるかもしれない。また、教育の父ともよばれるペスタロッチの名前も出てくるかもしれない。実在人物ではないらしいが、中世、横暴な代官の命令で息子の頭の上においたりんごを矢で射たとされる信念の人ウィリアム・テルや、これもまったく架空の人物であるアルプスの少女ハイジの名前も思い浮かぶ。固有名詞ではないがスイスの傭兵もあるかもしれない。
 スイスは人口700万程度の小国ながら、高いGNPをもつ先進国であり、ジュネーブ大学やローザンヌ大学、また、時計のローレックスやボールペンや高級色鉛筆のカランダッシュ、ロッシュやチバガイギーなどといった医薬品産業など、最高水準の学術機関や世界規模の産業を多数持っている。また、ジュネーブは、発案者が属するアメリカが参加しなかったために十分機能しなったが、第一次世界大戦後に創設された国際連盟の本拠地でもあった。もし、国際連盟が十分機能したなら、その後の世界の歴史は、また、異なったであろうが、その壮大な建物は、第二次世界大戦後に、ニューヨークに設置された国連のヨーロッパ本部でもある。さらに、そのジュネーブには、世界保健機関(WHO)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、世界貿易機関(WTO)、世界労働機関(ILO)など、多数の国連が本部を置いているし、オリンピック連盟の本部は、ジュネーブと同じくレマン湖畔のローザンヌにある。その対岸には、2003年のサミットが開催されたエビアンがある。
 私のように、開発協力や人道援助分野で仕事をしているものだけでなく、紛争だらけの今日、誰もが知っているべきものに国際人道条約、通称ジュネーブ条約というのがある。戦争という、いってみれば殺しあいの場である極限の戦場でも、まもるべき規則を決めたものだ。世界の179の国がそれを守ることを約束しているこの規則を作ったのは、国連でも、政府間でもなく、スイスの一市民団体であった。今では、世界中の人が知る赤十字マークがその国際規則を作った赤十字国際委員会だが、その発祥の地がジュネーブである。
 紛争に明け暮れているアフガニスタンとスイスは、その人道条約の入り口と出口の関係にあるように私にはみえる。

援助産業の入り口と出口
 もうひとつある。時折、マネーロンダリング(違法なお金をいくつかの金融機関をくぐらして、いわば洗濯すること)にも名前が出てくるが、スイスは世界金融の一翼以上を担っているが、そのいかがわしいお金はアフガンなどで産生される麻薬や同じく紛争の地アフガンで使われてきた武器の流通と関係している・・・、とこれはあまりに想像を膨らませ過ぎかも知れないが。
 スイスは、国連ヨーロッパ本部がある。たったひとりであっても、恐らく、世界のすべての国からの人が何らかの形で国連にかかわっている。つまり、国連に勤務している人が雇っているお手伝いは途上国出身者が多い。
 公正不公正を含め、多数国の人々のお金を握り、多数国籍者を抱えているスイスは、人質の財産を担保にしているから、どこからも攻撃されないと、真面目に解説してくださった国連関係者の言葉も、なるほどと思わせるほどの雰囲気も、この国にはあるし、それだけ国際という分野で稀有な立場を誇っているといってもいい。
 スイスの首都はベルンであるが、大体、スイスというとジュネーブが顔を出してくる。あらゆる観光地へのあらゆる便宜、100メートルをこえる大噴水が有名なレマン湖、そして時計やチョコレートだけでなく、いわゆるブランドファッション店も少なくない。そのジュネーブでは、毎日、膨大な数の会議が行われているが、開発協力や人道援助にかかわるものも少なくない。一方、20年以上の紛争にまみれてきたアフガンは、そのスイスで議論検討された支援の受け取り手の立場を保ち続けている。つまり、片や援助産業という綱の一端、入り口であり、他方は他の端、その終点の関係にあるともいえる。

スイスとアフガンの女性
 そのようなスイスとアフガンの女性を比べるなど、ムムム・・・途方もないようにみえる。成熟した大人社会であるスイスでは、女性も確固とした自己を持てるし、事実、私の知る限り、自立した方ばかりだった。どんな勉強をするか、どんな仕事に就くか、どのような人生を選ぶカ、どの分野での選択の幅は広い。が、この国の女性が参政権を得たのは1971年、バングラデシュに先立つことわずか1年、などと驚いてはいけない。日本の女性が参政権を得たのは1945年、アフガン女性は1965年、スイスよりも実に6年も早いのである。今でも、女性は政治なんぞという上品でないことには、なるべく、かかわらないで済めば、その方がいいのに・・と内心お考えのようにお見受けするインテリ女性もおられるように思えるのがスイスだ。

平和国家スイス
 また、スイスの国語は、ドイツ語、フランス語、イタリア語そして極少数がロマン語、さらに諸々が9%あり、何よりも多民族国である。スイスの州は、カントンとよばれるが、その権限は実に大きい。そもそも、日本で云えば、県知事の裁量権が大きく、国の代表たる首相は知事の互選できまるようなところもある。互いに、文化と歴史とその地域の成り立ちを理解した上で干渉しない。スイス連邦という国を維持し、共存するために最低限の協調協力をする、といった風にみえる。
 そして平和国家であることは事実だが、今でも国民皆兵で、男性たるもの、確か50歳までは、毎年、一定日数の兵役があるのである。他のヨーロッパ人は、スイス人は周囲を信じていないという位、国防は一大事である。そしてこの国、実は武器産業でも世界有数であし、昔から傭兵はヒトを資源とする輸出産業でもある。ちなみに、今もバチカンの衛兵はスイス人だそうである。

アメリカの矛先
 ここでわたしが世界保健機関(WHO)に勤務したのは、たった2年間だったが、その頃のアフガンはタリバンの極期だった。
 そのアフガンから、アメリカが手を引こうとしている兆しがある。
 大量破壊兵器を持っていたといわれるイラクとの戦争が終結した。タリバンのアフガンも、サダムのイラクも、国際的な問題ではあった。ただ、私には、国際的なことにもまして、これらの国々で、毎日毎日、何百万、何千万という人々が、私と同じように生きており、そしてその生活が脅かされ、自由が奪われてきたことこそが問題だと思える。人々に自由がないことは、単に貧しいことよりも重篤だ。私は、まもなく20年になる「国際」という仕事を通じて、開発とは、人々に、さまざまな選択が与えられることかと思っている。選択を与えられない国だからこそ、独裁者が跋扈し、人々を蹂躙し、そして国際的な問題をつくるのだ、と私は思っている。
 もちろん、人々の自由が脅かされている、ということを理由に、誰かが、つまり、他の国がその国をぶっ壊わせるとは思わないが、たった34日間とはいえ、一日1兆円にも上る軍事費を、ちがう方法でイラクにぶち込んでも、やっぱり、あの国は壊れたのではないだろうか。そして同じことはアフガンにも云えるだろう。
 今、アフガンはイラクの陰で、forgotten emergency(忘れられた緊急事態)化しようとしている。いや、イラクだって、早晩、そうなる。アメリカという絶対権力者が、次に何処に膨大な先端兵器を向けるかによって、世界の緊急事態は作られる。
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