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アフガンの歌 喜多悦子
アフガニスタンの今

 2001年の最後の月、新たに膨大な難民が流入する恐れがあるらしいパキスタンへの援助、また、やっと、合意されたアフガン暫定政権への支援の可能性を調べるための調査団に加わった。 1980年代末の以来、約十数年振りに、公式にアフガン難民と接触することになった。さらに2002年3月、アフガン女性支援のための懇談会メンバーとして、80年代の共産政権下、90年代のタリバン支配下につづいて、三度目のカブールを訪問することになった。

 同時多発テロを「戦争状態 !!」と認知したアメリカのタリ バンとアルカイダ攻撃以後、アフガニスタン、ちぢめてアフ ガンともよばれるこの貧困国の女性といえば、ブルカとよば れる目の部分がメッシュになった、頭からのマントが思い浮 かぶ。

 ペシャワールのユニバーシティタウン。 80年代末には、 その中心部のオールド.ババ.ロードには、軒を接するほど にNGOの診療所が並んでいた。 小児科、婦人科、外科、眼 科、整形外科、リハビリ...。2001年、そのほとんどは消え、 わずかに新興のひとつ、ふたつが、細々と店を開いている。 残っているひとつのNGO診療所を訪れた。 大きな門、その 外には、男たちがたむろしている。
つまり、門の中は、女性の患者がいるのだろう。 チョキダ ールとよばれる門番が、細目に開けた門へ、ひとりずつをい ざない、また、中からひとりずつを吐き出すように送り出す。

 中庭には、何十人もの、ひとしく薄汚れたブルカをまとっ た女性たちがうずくまっている。 幾人かには、これもひとしく垢にまみれた子どもがまといついている。 ブルカあいだに見える腕には、プラスティックの腕輪を幾重にもはめているが、何も荷物はもっていない。 彼女たちは、たじろぎもせず、まるで、10年もそこにいるように、地面に座っている。 メッシュになった目の辺りも薄汚れている。その奥にある目を私は見ることが出来ないが、その目は私を見ている。その様子、その女性の在り様は、80年代末と寸部も違わない、ように私には思えた。 私は...、彼女たちに何が出来たのだろうか?

 2002年3月12日。 白い山に囲まれたカブールの空は、抜けるように真っ青だった。 厳寒というだけでなく、タリバンの原理主義極期という重苦しさで、街全体が息を潜めていた1998年2月とは別の時代、別の国のようであった。

 1995年頃の、タリバンと反タリバン連合による首都をめぐ る興亡で、かつての王宮付近や広大な高級住宅地だったあたりは廃墟のままだが、多数の外国商品が並んでいたチッキン 通りは、また、元の賑わいと華やかさを取り戻していた。ほとんどの窓にガラスがないか破損していた98年に比べ、あち こちのビルにピカピカの真新しいガラスが陽光にまぶしい。
 捨てるようなものがないから、という説もあるが、ドイツの 援助で行われているという清掃活動で街路にはゴミひとつ落 ちていない。 道沿いの溝を直す人、自転車の修理屋、平べ ったい楕円形のナン売るパン屋、カブール川べりの野菜の露 天商も肉屋も忙しい。 一輪車で果物を売る人、また、買う 人。

 日本語の残ったままの中古車があふれる大通りでは、時折、 国際治安支援部隊(ISAF)の姿をみるが、それほど目立 ってはいない。むしろ、女性たちの姿が多い、と感じられる。すべての人々は、まだ、ブルカをまとっている。かぜに翻るブルカの足元は颯爽とみえる。そして、小学校や病院、役所の中では、顔を出している人も多い。写真を拒否する人も減った。が、それはあくまで、タリバン時代に比べて、だ。国連スタッフ、外国人である私自身の行動まで制限されていた頃に比べてである。ブルカをたくし上げて、買物する姿もあるが、かつては見かけなかった女性の物乞いもいる。そして、女性たちは、まだ、心底、笑えていないようにみえる。ブルカの中でも外でも。

 この国は、生まれ変われるのだろうか。
 今を、つかの間の脆弱な平和に終らせてはいけない、と思 う。 が、どうやったら、いいのか。飽きっぽい国際社会 の関心を、どうすれば、引きとめておけるのか。表面的な変 化の裏で、数十年を戦いに明け暮れた男社会は、多分、何も 変ってはいまい。強大な破壊力をもったピンポイント攻撃 で、おとなしくするしかない、地域の武力指導者。どうすればいいのか、どうすれば、今の静けさを、少しでも、長くて、少しでも確固たるものにできるのか、私にはわからない。ブルカの翻るカブールも街を覆う空は、いつにも増して、青い。この次に、この街に来れるのは、いつだろうか。国連機の狭い窓から、私はいつまでもカブールを凝視していた。

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