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アフガンの歌 喜多悦子
結婚式(1)
 数世代前の話ではあるが、私の故郷、宝塚でも、結婚式まで花嫁の顔を見ないのがあたりまえだったそうだ。花嫁と会わないままその日を迎えた新郎が、結婚式がはじまって初めてみた花嫁のご面相に異をとなえ、大騒ぎになったことがあると、明治21年生れだった祖父が話していたことがあった。パキスタンやアフガンの伝統的な生活のなかで、そんな光景があっても大騒ぎではなく、結婚式での初顔合わせは、今も続いているようだ。ペシャワールにいた頃の、ふたつの、あまりにも違う結婚式で見た、あまりにも同じ光景を思い出す。

ペシャワールのホテルでの結婚式
 正確に云えば、式ではなく披露宴というべきであるが、その結婚式はペシャワールの古風なホテルを借り切って三日間にわたって行われた。ひょんなことから知り合った花嫁の知人に誘われて、その豪華絢爛の式典というか、パーティの初日を経験した。

 春まだ浅い頃、しかし、確かに季節が変わったと感じられる風がさわやかにホテルの庭に流れている。式は夜だが、昼前から準備が始まる。庭に幾つものテントが張り巡らされ、やせた男たちが次々と椅子を並べている。たまたま、そのホテルで開かれた国連の会議に出ていたため、準備段階からみることになった。黒いベストに蝶ネクタイ、靴をはいて、立派なカイゼル髭を蓄えているのはホテルの従業員であろう。民族衣装のシャルワール・カミーズ姿、サンダル履きはホテルの下請けであろうか。
 数時間後に始まる大げさな式に参列するであろう近隣の金持ちと、目の前で椅子を並べている人々は、同じ国の同じ人間であるが、違う時代、違う世界の住人のようにも見える。そして、残念なことに、この国におけるその違いは、今までがそうであり、今もそうであり、そしてこれからもそうであるかもしれない、と思わせられる。

華やかな女性たち
 夕刻、花嫁の知人と連れ立ってホテルを訪れた。この国は大統領、首相から乞食まで、また、老人からよちよち歩きの子どもまで、同じ形のシャルワール・カミーズ姿だ。常日頃の衣装でもあり、基本的には結婚式であれ、葬儀であれ、儀式の際も同じである。だから、午前中、テントを準備していた男たちの衣装も、今夜のメインゲストも同じだ。一方、今日の式に招かれる女性たちも、同様の形の衣装だが、すべからく派手派手しく、金銀きらびやかな点が、白かグレーか、せいぜいベイジュ程度の変化しかない男性とは多いに異なる。そしてその中に包まれている人間も同じだが、おくる一生はまったく違う。

 花嫁は、ほぼ、化粧を終え、アクセサリーを物色中であった。タブロイド新聞ほどもあるビロード張りの盆のような宝石台数枚には、鈍い輝きをもった、本物の金の装身具が多数並んでいた。花嫁は一族の女性たちにかこまれて陽気であった。化粧を直したり、アクセサリーを選んだり、はたまた、タバコに手を伸ばしたり、次々と部屋に入ってくる親族、友人とにぎやかに挨拶を交わしていた。
 お祝いをのべ、招待を謝して、片隅のソファーに居場所をみつけた私に、花嫁の知人は解説をはじめた。

上流階級の女性
 結婚式をむかえる女性は、この国にはめずらしくまもなく30歳になろうとしている。 理由はある。この地で1番とは云わないまでも、相当のお家柄、当然、しかるべき年齢で嫁ぐものとされていた。が、英語を喋る上流階級の女性の何人かは外国、大抵はイギリスに留学する。その花嫁も外国の文化にさらされ、自由を知ったのであろう。一族の長でもある父親は、最愛の娘のわがままをかなり許容してきたらしい。それが仇になって、というべきか、彼女は遠縁に当たる男性と付きあい、二人で結婚を決めたのである。上流の、それも同じ一族に属する男性とはいえ、ムスメが自分で男を選んだことが大っぴらになると、父親の社会的面子に差し障りがあったのであろうが、何度も何度も、色々な人がムスメを説得し、なだめたりすかしたりしたのであろう。 父の後を継ぐ長男にいたっては、脅したりもしたらしい。その内、諦めるだろうと、ムスメと一族の根競べがはじまったらしい。が、上流階級のひとり娘は単にわがままに育っただけでなく、伝統的社会からいえば、外国の文化に毒されてしまい、どうにもならないまま、年月が過ぎたそうだ。まもなく30、という時期に、とうとう、父親が折れたが、何でも、その前には自殺騒ぎもあったという。

娘の部屋は「治外法権」
 その花嫁は、どうやって、オトコと自由に会えたの?という私の質問に、友人はカラカラと笑った。
  「ドクター、あなたは国連の治安警報が出た時、事務所に働いていたパキスタン人女性スタッフの家に避難したことがあったでしょう。その時、その女性の部屋に父親や兄弟が顔を見せたことがあった?われわれは、自分の部屋では自由なの・・」つまり、オンナの子が娘になった場合、上流階級では、娘付きの召使以外は、父親、兄弟と云えども成人した娘の部屋に入ってくることはなく、そこはある種の治外法権でもあるらしい。(つづく)
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