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アフガンの歌 喜多悦子
グルブディーン・ヘクマティヤール その1――あるアフガンゲリラのこと

向三軒両隣
 向三軒両隣は、もう、死語かも知れないが、私のペシャワール時代、その一人にグルブディーン・ヘクマティヤール氏がいた。1980年代末、パキスタンで、アフガン難民援助にたずさわっていた頃だ。
 とはいえ、親しくお付き合いしたり、じかにお目にかかったりしたわけでもなき、そもそも、その大邸宅に氏がずっとご滞在ということもめったに無かった。が、冷戦時代、対ソ戦略としての膨大なアメリカのアフガン援助の主な受取人の一人として権勢をふるい、また、1989年2月にソビエト軍がアフガンから撤退した後、短期間ながら、すったもんだの末に生まれた寄り合い所帯のイスラム暫定政権で、短期間ながら首相を勤めたのだから、私のご近所中の名士であったことに違いはない。
 ちなみに、私の家は、舌をかみそうな長い名前のシャヒブダザ・アブダル・カユム通りにあったが、この短い道沿いに、アフガン援助関係者が何人か住んでいた。左隣はアメリカ情報センターの所長宅で、当時は女性だった。右側は、ハンフリー・ボガートを野性的にしたような初老のアメリカ援助庁、つまりUSAIDの幹部で、援助の第一線のツワモノ風であり、公私にわたってお世話になった。いずれの家も、腰に拳銃をぶら下げた5、6名の守衛がいた。また、四六時中の停電では、間髪をおかず、発電機が轟音をたてた。夜であれば、通常の電灯の明かりよりも一段とつよい、煌々とした光が四方に広がった。両家の合間の拙宅は、広さはそこそもだったが、昼間は、名前はアフガンを独立させたとされる国王アマヌラと同じだが、やせで貧相な門番がひとり、ぼそぼそと庭の草むしりをしているし、停電になると、ロマンテックだが頼りないガス灯の明かりという、いささかさえぬ状況であった。

複数の家を持つイスラム戦士
 その80年代、アメリカ支援をほしいままにしていたムジャヒィデーン(イスラム戦士)ボスたちは、皆、複数の大住宅を持っていた。そして、その中には武器や援助物資が山積みされているという噂も耳にした。中は見たことないが、もちろん、ヘクマティヤールも複数の家をもっていた。
 家の中と云えば、ムジャヒディーンボスの一人で穏健派の家を何度か訪ねたことがある。日本風に家は、一大邸宅、そして家財道具の豪華なものだった。これが難民?と、ナイーブな初心援助者の私は思ったものだ。難民が貧しくあらねばならないとは、難民に関する如何なる条約にもかかれていなが、やはり、腑に落ちない気がしたことは事実だ。ただ、穏健派の家ですら、まわりには使用人とはいうものの、多数の護衛というか、銃を持った男がウロウロしており、あまり、きょろきょろ探検したいという雰囲気でもなかったので、わが向う三軒両隣氏の邸宅内の様子など、想像も出来ない。
 あの当時の難民キャンプやムジャヒディーン宅は確かに異様だった。国際社会もそれを見てみぬ振りというよりも、西欧国際社会がけしかけていたこともあって、彼らのみに責任があるとは云いたくない。が、視察に訪れた母子病院の病棟のひとつが武器庫であったり、大型トラック山盛りの某国援助食料の下半分が武器であったりの実態に遭遇すると、これは一体何なのだ!!と思った。それはそれで普通の感覚であり、当たり前の疑問なのだが、まわりの人道援助経験者の誰一人、何も云わないことに大いにショックを受けたものである。

親しくなった門番
 ところで、たった5分だが、私は、毎朝毎晩、車でヘクマティヤール邸の前を通って通勤していた。ボス在宅時には、緊張した面持ちで銃を構えている門番たちは、主が不在になるやいなや、武器などを積んでいるらしいトラックの駐車場でもあった門前の空き地でバレーボールに興じるのだった。髭モジャの男性が、民族衣装のシャルワール・カミーズの裾を翻して遊んでいるのは、実にほほえましい光景であった。また、よほど鈍感でない限り、今日、ボスは留守、今日は在宅と判かるのもご愛嬌だった。毎日の通勤時、何となく目が合ってしまった門番の一人と、その内、会釈しあうようになり、しばらくして、先に短刀をつけた銃を構えている写真をとらせてもらった。もし、ヘクマティヤールにばれてしまったら、異国のオンナに写真を撮られた彼も、そのような不埒な行いをしでかした私もどうなったであろうか、と今でも思う。
 タリバンほどではないが、ヘクマティヤールも原理主義者としても知られていた。背が高く、痩せ型なのは同じだが、彼とオサマ・ビン・ラディンは、見かけがずいぶん違う。また、片やアフガンパシュトゥーン、一方は、よく知られているように、サウジ・アラビアの出だ。しかし、私には、何故か二人が重なって見える。(つづく)

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