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アフガンの歌 喜多悦子
アフガンの女性 番外(1)――あれから1年、モロッコで思うこと

 2002年8月末からの2週間、つまり、9月11日の直前まで、私はモロッコ王国の辺境地帯の女性、特に妊産婦の健康状況調査に従事していた。

モロッコのイメージ
 モロッコといえばカァサ・ブランカ、つまり白い(ブランカ)・家(カァサ)。イングリッド・バァグマンとハンフリィ・ボガァドの映画を思うのは、相当の年齢だ。しかし、それ以外に、何かモロッコを知っているというのは、実際に彼の地を訪れた人か、何かこの国に因縁がある人か・・・。良いにしろ、悪いにしろ、わが国と深刻な関係になる事態はない国、と思われている。だが、実は、私達は、結構、この国とはご縁をもっている。タコなど、モロッコ産海産品のわが国への輸入量は相当だし、驚いたことに、私もしばしばお世話になっている某メーカー製インスタントお吸い物に入っている松茸はモロッコ産だという。何となく、それなりの親近感がわく訳だ。また、長い海岸線が美しいアガディールや異国情緒たっぷりで、蠱惑的なマラケシュやフェズのメジナ(城砦都市内部)といった古い街だけでなく、国土の背骨のように真中にそびえる峻険広大なアトラス山脈からサハラ砂漠まで、山あり、谷あり、砂漠あり、しかも、今も遊牧を生業とするベルベルの人々の村落、さらに地球創生の頃も、さもありなんと思えるような荒々しくも壮大雄大、かつ、人を寄せ付けぬばかりの自然から、アラブ風、また、ベルベル風の村のたたずまいまで、何でもありの楽しみ方も可能な国である。

 それに何と云っても、ヨーロッパからたった数時間の飛行なのだ。どこに行ってもヨーロッパ人らしい観光客の姿が見える。が、カサ・ブランカ空港の外には、旅行業者が立てたという「ようこそモロッコへ」などという看板もあるほどだから、日本人も相当数訪れているのであろう。何よりも、観光地のホテルは、お金もかかるが如才なく、親日的でヨーロッパとそれほど変わらない。ヨーロッパの安宿以上のホテルもたくさんあるし、首都ラバトやカサ・ブランカ、アガディールといった大都市のスーパーなど、先進国の以上の規模で、豊富な品が安く並んでいる。とはいえ、この国のすべてが安全だと云い切るには問題もある。それは、観光地の雑踏のスリ、場末のコソドロの類から、国境問題をはさんで対立している西サハラ近傍の紛争の危険性から、目下、安定しているとは云え、やはりイスラムを国是とする立場上、原理主義の侵入対策もあろう、つまり、諸々のレベルのリスクがあるだろうことは、容易に推測される。

アラブ諸国との違い
 モロッコはアフリカ大陸北西部の角に位置する。海岸線の大半は大西洋だが、一部、地中海に接し、ジブラルタル海峡をはさんで、ポルトガルに近い。南米エクアドルのガラパゴスといえば、ダーウィンのビーグル号航海記で有名になった稀有な生物種を保ちつづける島として名高いが、ここモロッコのすぐ傍に点在するカナリア諸島も、ヨーロッパに近いリゾートというだけでなく、火山島と珍しい生物がいることではガラパゴスに劣らないらしい。が、モロッコからわずか100キロほどのこの観光資源は、何と1,800キロも離れたスペインの領土である。

 チュニジア、アルジェリアと共に、マグレブ(日の沈むところとか、西の果てという意味)諸国を形成するモロッコは、アラブ系のイスラムを奉ずる君主国だが、いわゆるアラブ諸国と、かなり違う部分と、やはり・・・と思わせされるところとがある。例えば、どこに行っても、王様の写真が掲げられているが、昨年、即位され、ごく最近ご成婚されたらしい若い王様の写真も、先王のそれも、ほとんどスーツ姿である。滅多に民族衣装をお召しの姿はない。とはいえ、残念ながら、どちらも王妃の写真はない。すなわち、男性優位の伝統社会風なのである。

 それでも変化の兆しもあることはある。聞くところによると、国王が結婚しているかどうか、あまりオープンにしない伝統だったそうだが、今の王様は、成婚に先立って、婚約を発表したらしい。また、王様の妹、先王のプリンセスが予防接種のキャンペーンポスターに登場している。各地の診療施設には、医師、助産師、看護師その他、専門を持った女性たちも少なくない。アフガニスタン同様、女性の患者はオンナの医者が診るのが建前だが、それほどコダワリは無いように見える。つまり、第一選択は女性の医師だが、いなければ誰でも良い・・・という感じなのである。

 とは云いながら、ちょいと田舎に行くと、一世代二世代昔の日本と同じ、つまり、伝統社会なのである。最も先進的かつ名士でもあるらしい医師宅であっても、女性が接待に現れることはない。食事を運ぶのも、皿を配るのも、名物のミント入りの甘いお茶を注ぐのも、すべてオトコだ。アフガンと似ている、いや、同じだ!!

 しかし、お酒は違う。敬虔なるモスレムの方々は、断固、禁酒しているが、正式には、宗教的な日以外の飲酒が禁じられている訳ではないし、現地の人でも、ワイン、ビールを適当量たしなむ方は少なからずみる。ひらけているとも云えるし、いい加減とも見えるし、慎み深いとも云えるし、古いとも見える。(つづく)

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