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老親とともに 信子と啓子
プッツン、その後(信子)

 あの夜以来母のことが心配で、どんな変化も見逃すまいとつききりだったのに、全く何事も無かったようにいつもと変わりなかった。先ずは、主治医に相談することにしてお薬をもらいに行くといって出かけた。予想通り「まだらボケ」、「お歳からいってもそうでしょう、あまり環境をかえないで、いつもどおりの生活をなさればいいですよ」。そして「デイサービスなどに出かけてお友達とお喋りなどするのは、とてもいい刺激です」とも。
 私のとぼしい知識だが、母はもう数年も前から着実に老いの坂をくだっているのが分かる。物忘れ、勘違い、ないないづくし、と。そしてその自分の行為を、十分納得して承知しているのだ。「ああ、ぼけてきたわ、いやだいやだ」と、私はすかさず「そうよ、歳相応にぼけなきゃもたないよ」とも。さてしかし、このプッツン母は承知しているのだろうか。

 直ぐ近くに叔父夫婦が住んでいる。父の弟で夫婦とも母と8歳ちがう。勿論二人ともに仕事は完全リタイアーし、年金生活者なのだが、叔母はたいへんなはりきりマダムでいまでも句会に英語のレッスンにと、叔父の車で出かける。ところが、このところ時折、半日ほどの間まったく意識が欠落することがあるのだ。周囲の家族に聞かされて、無意識の空白の時間のあることを知り、それでも叔母は朗らかに「なーんにも知らんのよ。だんだんこんなことになっていくんかしら」と言ったりしている。
 母は、この叔母の話をきいて、「わたしより先にぼけたらあかんよ」といっていたのだけれど、さて、、、、、、でもやっぱりあの夜のこと、聞いてみよう。
 私は、本当におそるおそる尋ねてみた。なんか遠まわしに、いやいやずばり直截にか、たとえ話のようにか、、、、、、しかし結局さらりと、ありのままを話し「おぼえてる?」と聞いてみた。母は少しは驚いた様子だったけれど「ぜんぜん覚えてないわ、木村さんなんて、まさえさんなんてとっくに死んでるのに、なんでそんなこといったんだろう」「いやだねえ、ほんまにぼけてるわ」と繰り返し、しかし笑っている。そして、そんな自分の変化をけっして深刻には受け止めていないように思えた。ああ、やっぱり白い時間が流れたのだ。私のほうがはるかに深刻になっていた。
 そして次の日、別の木村さんの話がでた(我が家の知人になぜか木村さんが多い)。
 母いわく「ああ、木村さんは鬼門やわ」。大笑いができた。母のこのあっけらかんに私は救われている。
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