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老親とともに 信子と啓子
ちょっとしたもの(啓子)

 用心のために顔の見えるインターホンに変えた。いままで使っていたものと操作方法の変わらないものを探すのに苦労した。受話器をとると自動的に画像が見えるので、母も「便利」だと喜んでいた。ところが10日くらいで故障してしまい、電気屋さんが混んでいてなかなか修理に来てくれない。
 「故障しています。玄関をノックしてください」と張り紙をしたが、耳の遠い母は大音響のテレビを見ているのでノックの音など聞こえない。子供たちは合鍵を持っているのだが、内側からチェーンをかけているのでどうしようもない。「無用心だから必ずチェーンをするように」と常々言っているので文句を言うわけにもいかない。しかたなくケイタイから電話して開けてもらっているが、困ったのは訪問看護師さんやヘルパーさんである。会社に電話して会社から母に電話してドアを開けてもらっているようだ。もっと困ったのはお弁当やさんである。お弁当は玄関先に置いていってくれるのだが、取り忘れが心配で、結局誰かがその時間に見回りに行くことになった。ちょっとしたものでも日常的に使っているものが故障してしまうと大混乱が起きるのである。
 母は保守的な父に比べると新し好きで、機械にも強かった。80歳でワープロを覚え、クラス会の住所録を作っていたくらいだ。ところが、ここ数年、新しいものへの好奇心はまったくなくなりむしろ嫌悪感が激しい。使いこなせない不安なのだろう。
 電話の内容は受話器を置いた途端に忘れてしまうので、ファックスで用事を伝えた方が安心だと思い、ファックスつきの電話に買い換えた。事前了解を得ていたのだが、いざ機械が運び込まれてきたら「こんなもの使えない」と半狂乱状態でどうしようもない。結局、2週間くらい箱にいれたままでなんとなく慣れてもらい、子供の中でも一番母の信の篤い末の弟に説得してもらった。だがファックスはほとんど活躍していない。
 からだの具合の悪いときにベッドから起きてこなくても電話を使えるように子機の使用方法を教えて何回も練習したが、やっぱり使えないままである。ケイタイも高齢者のために便利なはずであるが、数字も小さいし、あまりにも従来の電話機と異なる形態なので、違和感があるのかさわろうともしない。機能はもっとずっと少なくして、高齢者が親しめるケイタイが開発されないものだろうか。
 もっと小さいもので言えば、体温計。長年使い慣れた水銀柱のものが壊れてしまったので、新しいものを買った。これが電子体温計なのである。「電子」といったって後ろをぴっと押すだけである。ところが、これをどうしても覚えてくれない。何回も説明すると「わかったわよ」とうるさそうに言う。しかし、しばらくすると「これ壊れている」と言う。仕方ないので、体温計に「オシリを押す」と付箋をつけたのだが、すぐにはがしてしまう。「ひとを馬鹿にして。熱くらいはかれるわよ」。しかし、しかしなのである。
 本当にちょっとしたものに悩まされる。
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