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老親とともに 信子と啓子
お歳はいくつ?(靖子)

 1月末、母は卒寿を迎えた。世界に冠たる長寿国日本といえども、90歳は見事な年齢である。娘たちもさることながら、本人もその事実が信じ難いらしい。鏡を覗き込んでは「へぇ〜、私が90歳?」と自分の顔をまじまじと眺めて感に堪えない様子である。
「長かったような気もするし、アッという間だったようでもあるし・・・。身体は歳相応でも気持は昔と変わらないのよ、おかしいわねえ」と言って笑った。
 娘の私が言うのもおこがましいけれど、母は実年齢よりも若く見える。明るい色の服や帽子、大きな眼鏡が人目を引くのだろう。バスの中やクリニックの待合室などで雑談の折に、よく「お幾つですか?」と聞かれる。1〜2年前までの母は「幾つに見えますか?」と聞き返して相手の返事を楽しんでいた。私は内心、ママったら人が悪いわ、と思ったものだ。時にはその人から「それでは私は?」と応酬されるとさあ大変、母もたくさんおまけして答えている。傍で聞いている私はおかしくて仕方がなかった。ところが最近になって戦法が変わったようである。問われる前に「私、90なんですよ」と自分から年齢を口にするようになったのだ。すると有難いことに大抵の方が「まあ!」と目を丸くしてくださる。母にはなんとも心楽しい一瞬に違いない。参っちゃうなあ、と付き添っている娘は苦笑いする外ないのである。
 現在、世界最高齢は福岡県に住む皆川ヨ子(よね)さん、114歳だとメディアが報じた。テレビでそのニュースを視た母は「しっかりなさっているわねえ。あの方に比べたら私はまだまだヒヨコね」と何だか嬉しそうな顔をした。それから2週間ほど後のこと、いつものように夕方の定時コールをすると、「すごい人がいるのよ〜!」と感激している。聞けばその日のテレビ番組で103歳の方の活動が紹介されたのだとか。
「少年刑務所を訪ねて、受刑者の話し相手になっているのですって」
どんな経歴の方なのか、自由に面会できるものなのか、そのあたりは母も聞きもらしたようだ。せっかく退所しても再犯で戻ってくる者が多いという。そういう少年の1人に向かって「『あんた、何になりたいんや?まだ若いんやからいくらでもやり直しが出来るんや。これからのこと、よ〜く考えなあかんで。しっかりしいや』と諭しているのよ」と母は関西弁のアクセントを真似て話すのである。よほど感動したのだろう。
「私まで気持がシャンとしたわ」と張り切っている。周りを見回せばいつの間にか最年長になってしまった母にとって、人生の先輩たちのかくしゃくとした姿は何よりの励みになったと思う。お手本があるのは幸せなことだ。
 「ママ、素敵な90代にしましょうね」と言ったら「そのつもりよ。明日のことはわからないけれど、私はいつも“元気よ〜!”と自分に言い聞かせるの」と嬉しい答えが返ってきた。
「毎朝パパに『おはよう』って挨拶するときも、『今日も一日見守ってくださいね』とお願いはするけれど、『助けてください』とは言いたくないのよ」と言う。気持はたしかに若いようだ。母はホヤホヤの90歳である。

 ――されば、人、死を憎まば、生を愛すべし。存命の喜び、
 日々に楽しまざらんや  (徒然草 第九十三段)
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