判例 女友だち 映画ウォーキング 情報BOX わがまま読書 リンク おたより欄
老親とともに 信子と啓子
夢みるひと(靖子)

 「ああ、一晩でいいから夢を見ないでぐっすり眠りたいわ」と母が言う。
「昨夜は村上のおばあちゃんが出てきたのよ。もうずいぶん長い間お墓参りをしていないので気にかかっていたの」
 村上のおばあちゃんとは母の母の母、通称ムーばあちゃん。祖母は養女だった。明治の女性にしては珍しく英語を話し、娘婿の祖父の店を手伝っていた。写真に残るムーばあちゃんは地味な着物を着てちっともハイカラには見えないけれど、外国からの客にも上手な英語でアテンドしていたと聞いている。お昼のお弁当を届けるのは小学生だった母の役目で、ご褒美はミルクセーキやシュークリームだったわと、懐かしそうに母は語る。それから間もなく母と私はおばあちゃんのお墓参りをした。
 それにしても母はよく夢を見るようだ。本人曰く「365日、毎晩夢を見るのよ。疲れちゃうわ」
 いくらなんでもそれはオーバーだと思うけれど、かなり頻繁にみるらしい。その上、最近はカラーが多いのだそうだ。これはもしかしたら、映画もTVもかつてのモノクロから、鮮明なカラー画像になった影響かしら?とおかしな推測までしたくなる。
「子供の頃は鳥のように空を飛ぶ夢を見たわ」と言うから、「大空を飛んだの?」と聞いたら「ううん、屋根の上や庭の松の木の上よ」という答えが返ってきた。若い頃の記憶にはもっとスケールの大きなものもある。海面が2つに割れてその真ん中を歩いていく夢だ。この話はくり返し聞いたので、私はもうその光景をありありと思い浮かべることが出来る。
「まるでモーセの出エジプト記みたいじゃない?」と私はなんだか羨ましい。
 父が亡くなってまだ日も浅いある朝のことだった。
「夢の中で天国のパパに会ったわ」
「うわ〜、いいなあ。それで?」と思わず身を乗り出した。
 父が大好きだった魚の煮付けを持って山道を登っていくと、頂上に一軒の家があって、父と他にも数人の人がいたそうだ。
「家の中には燦燦と陽が射していて、あたり一面キラキラと輝いているの。魚が腐らないかと置き場に困ったわ」(夢の中で冷蔵庫は見当たらなかったらしい)。
 父は「足の傷がまだ治らないんだよ」と脛を見せたとか(このへんはいやにリアルだ)。そういえば父はちょっとした傷やハレモノの治りが悪く、手当てをするのはいつも母だった。
「それから私は1人で山を下りて来たのだけど、パパや他の人達がみんなで手を振って見送ってくれたのよ。本当に何とも言えないくらい素晴らしい夢だったわ」
 今のところ、この「天国のパパ」が母の夢ベストNo.1である。
「私たちは出てこないの?」と聞いたら、「不思議ねぇ、あなた達の夢は見ないわ。どうしてかしら?」
 母の夢に登場するのは遠いところの人たちばかり。
Copyright(C) 2001 GAL. All Rights Reserved.
 
TOP BACK