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老親とともに 信子と啓子
検査を受けるのだあ〜れ?(靖子)

 もともと色白だった母の顔色が、最近は透き通るような感じになってきた。そういえばあの時もそうだったと心配していた矢先に、クリニックの先生から「貧血が進んでいるので、大きな病院で精密検査を受けるように」という話である。この半年ほど毎月ヘモグロビン値が下がり続け、鉄剤を服用しても改善しない。その上赤血球も減少してきたそうだ。「加齢による造血機能の低下なのか、臓器からの出血など他の原因によるものか、調べたほうがいいでしょう」とおっしゃる。予想しなかったわけではないのに、やはりそうかと一瞬うろたえた。その一方で、母を連れずに来てよかったと内心ホッとしたのも事実である。
 母には話を加減しながら説明した。「それにしてはフラフラすることもないし、食事は美味しいし、大したことはないわよ。この前だってひどかったけれど、治ったもの」と言う。この前といっても、あれから5年も経っているのだから、体力だって、身体の機能だって格段に衰えている筈である。検査だけでもかなり消耗するだろうと、娘はつい取り越し苦労をしてしまうのだ。
 「結果によっては、その病院へ入院したり通院する可能性もあるので、紹介状の宛先はよく考えて決めるように」とアドバイスを受けたものの、皆目見当がつかない。‘紹介状’というのは今までの診療データのことらしい。母の年齢を考えて、いざという時に慌てないように病院選びをしておこうと思いつつ、先延ばしにしていたのが悔やまれた。検査というだけであたふたするのだから、難病を患った場合はどんなに大変だろうと思う。昨今、病院のランク付けに関する出版物が多いのもむべなるかなとうなづける。病院を選ぶのも寿命のうちなのだ。
 幸い、つてを頼って納得のいく病院が見つかり、近日中に受診する手筈が整った。日頃通っているクリニックは電車で一駅、それに比べれば遠いけれど、急行を利用すれば車で行くよりはいいだろう。
「ママはしばらく遠出をしていないからちょっと心配」とつぶやいたら、「それ位大丈夫よ」と母の方がシャンとしている。「採血の頃は体調が良くなかったから、きっとそのせいよ。何といっても90歳ですもの、少しくらい具合が悪いことだってあるわよ」と、どちらが励まされているのかわからなくなる。「悪いところがあったら治せばいいのよ」
 強いなあと、改めて感心する。母を支えているのは一体何なのだろう?「治せばいいのよ」と言わせる力はどこからくるのだろう?たとえ聞いてみたところで、母自身にもしかと答えられないに違いない。草柳大蔵風に言えば‘人は生きてきたようにしか老いない’のだと、妙に合点がいくのである。
 検査を前にしても母の日常は変わらない。朝夕の定時コールをすると「今日はお天気がいいから大洗濯をするわ」とか、「庭の雑草取りをして気持がいいわ」と報告する。「夕食は野菜炒めよ。細切りにしたじゃがいもやピーマン、玉ねぎをチンしてウィンナソーセージと一緒に炒めるの」などと、料理も手抜きをしていないようである。ああ、この分なら大丈夫だろうと、私は少し安心する。
「貴女はもっと食べないとダメ。私の歳になって病気をしたらもたないわよ。気をつけなさいね」と逆にハッパをかけられた。私も頑張らなくちゃ!
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