判例 女友だち 映画ウォーキング 情報BOX わがまま読書 リンク おたより欄
老親とともに 信子と啓子
ものが、無くなる(信子)

 4年前に父が91歳で亡くなってから、母は私ども家族(夫、娘と私)と一緒に暮らしている。母は、91歳になるが足が不自由(湿関節炎)のほかは極めて元気。介護度は、要介護。2、週3回の通所サービスと週1回の家事援助のサービスを受けている。
 父が亡くなってから、緊張がとけたのか、いろいろなところに老いの影を感ずることが多くなった。

 母は整理能力に欠ける。本人自身「若い頃から私はそうなの」と十分承知しているのだけれど、1年ぐらい前から「あれがない、これがない」が増えたように思う。特に最近になって、季節外れなのに毛皮のマフラーのいい方のがどこを探しても無いという。私が片付けそうなところを二、三指摘したのを、「全部見直してみたけれど、やっぱり無いわ」という。さらに、「染色用の藍棒をデイのお友達に使ってもらおうと思って、ここに出しておいたのに無いの」という。
 今までも探し物は日常茶飯事で、ヘルパーさんに手伝ってもらってシャツやブラウスの発掘をしている。そして挙句の果てが、「お蔭様で出てきました」というのもしばしばなので、そんなに心配もしないでいたのだけれど、今度ばかりはちがった。母は、涙ながらに「彼女は、いい子だからね……、そんなことはいやなのだけれど……」といい始めた。なに!? なに!? これ以上言葉を続けさせてはいけない。

 「お財布のお金がない、あんたとったの、なんて言いはじめたら、それは痴呆のはじまり」
 と何人かの友人からも聞いている。
 私は、愕然とした。
 母の洋服ダンスの引出しを、念のためと思い開けてみた。
 あるではないか!!
 母も安心したようだけれど、ほっとしたのは私である。
 「ねえ、ゆっくり探そうよ。きっと思いがけないところから出てくるよ。」
 「そうねえ、よかった……」と母。何がよかったの、おばあちゃん。
 それから数日後、「また、無いのよ……ウフフフ」と。今度は、苦笑している母。
 よかった。
Copyright(C) 2001 GAL. All Rights Reserved.
 
TOP BACK