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老親とともに 信子と啓子
梅干しと母(啓子)

 今年86歳になる母は、一人住まいをしてそろそろ3年目になろうとしている。7月の介護認定では要介護度2に進級したが、基本的な身辺自立はまあできているし、判断力も意外としっかりしている。ただ、しかし、物忘れがここ数年の間にどんどん進み、とくに一人で気楽に生活するようになってから、刺激がないせいかその進歩ぶりにはしばしば驚かされる。
 先日、小さな旅行をした。母へのおみやげにいつでも頭を悩ますのだが、今回は乾燥した梅干しを買ってみた。夏は塩分を補給するために毎日梅干しを1つ食べると良いというホームドクターの言葉を思い出したからだ。
 いそいそと包みを開けた母は、怪訝な顔をしている。でも食べたらほの甘くてお茶請けにいいと思ったようだ。口から出した種をみて「種ばかりで変な梅ねえ」という。説明書を読んだら「中国産」とある。
 「へー、いまは中国から梅を輸入しているのねえ」と母は感心して、もう一粒口に放り込んだ。今回のおみやげはどうやらお気に召したようだ。
 1日おいてお茶の時間に母を訪ねた。
 「この間から変な梅干しが置いてあるのよ。これなにかしらね?」
 うっと思いながら、「この間私がおみやげに買ってきたんじゃない。おととい一緒に食べたじゃないの」
 「あら、そうだったの」安心したように梅を口に入れて、また種を出して「種ばかりで変な梅ねえ」
 と。後は「以下同文」のやりとりが続く。
 やがて夕食。相変わらず食の細い母は半膳のごはんに苦戦している。残った一口を梅干しで食べてしまおうと思ったらしい。
 「あんた、これ変な梅干しだけど食べてみる?」
 「これ、だれが持ってきたか覚えていないの?」と私の口調はとんがってくる。
 「誰かが置いていったのよ。誰がくれたのか知っているの?」
 そしてまた、「以下同文」の会話となる。
 翌日。冷たい麦茶を入れながら、母は言う。
 「これ、おいしくない変な梅干しなんだけど食べる?」

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