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老親とともに 信子と啓子
いよよはなやぐ(靖子)

 母に口紅を贈り始めてからもう何年になるだろう? 確か最初は母が70代に入った「母の日」だったと思う。色はコティの3番、赤に近いピンクを選んだ。80代になってからは明るい紅色のシャネルNo.90に変えた。母にとって今では口紅だけが化粧らしい化粧になっている。
 「一世代前には、この歳になって口紅をぬったりしたら世間の物笑いになったわよ」
 「そういう時代もあったのねぇ」
 言われてみれば、祖母達の赤い唇を見た記憶はないなあ、と思う。
 「スカートは穿けなくなったし、ズボンもウエストを直さないと駄目だし、背中さえ歪んでいなければねえ・・・」とぼやきながらも、母のオシャレ心はいまだに衰えていないようだ。服の好みもはっきりしていて、色も柄も大胆なものが多い。店で選ぶ時にも、あれこれ勧めてくれる店員さんの言葉に惑わされないのは大したものである。そんな母の目下のお気に入りは、黒地に小さな赤いバラの刺繍が散りばめてあるセーター。どちらかといえば、無地でシンプル、色もモノクロやニュートラルが好きな私とは対照的である。
 ついこの間など、「米寿のお誕生日にどうかしら? 似合う?」と、鮮やかなローズ色のブラウスを見せられたのには驚いた。近頃は外出らしい外出が出来なくなった母にとって、赤いブラウスは外へ外へと気持ちを引き立て、若返らせてくれる活性剤みたいなものかもしれない。
 赤い色を身につけると元気が出ると聞いたことがある。そういえば赤いスーツを‘勝負服’と言った女性の大臣がいたっけ。
 「ワー、華やかでステキ!一段と若く見えるわよ」と弾んだ声で答えながら、母はいったいこのブラウスを何回着られるだろうか、と思った。
 年々にわがかなしみは深くしていよよはなやぐ命なりけり
                      (岡本かの子)
 先日のこと、時折母と出かけるおそば屋さんでのエピソード。
 レジで支払いをする私に、顔見知りになった店の人がそっと小声で問いかけてきた。
 「母娘ですか? それともご姉妹?」
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