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老親とともに 信子と啓子
夏休みの宿題(信子)

 母は、手先が器用で和裁も洋裁も編み物も何でも上手にこなした。反対に私はこの方面は不器用のうえに全く興味がない。必要にせまれば、いつでも母に泣きついて済ましてきたし、娘たちも、普通なら母親に尋ねるはずのところ全ておばあちゃんが先生だった。
 しかし、歳とともに視力もおとろえ、簡単な繕いものや既製品の丈詰めぐらいがせいぜいで愛用のミシンも物入れに片付けられて、ほこりをかぶっている。
 それが、このお蔵入りのミシンが日の目をみることになって1ヶ月。
 実は、デイのお習字の先生に筆入れを作ってさしあげると、あっさり約束してしまったのだ。その筆入れなるものは、もとはといえば、母がお友だちから贈り物にいただいたもの。数本の筆や墨など収めるのに重宝で、白地に黒の線描きの柄やファスナーの開け閉めにちらりと見える台紙の赤が見事な袋である。手作りの嬉しい贈り物で、母はずっと気に入って大切にしていた。お習字の先生もその便利でおしゃれな逸品に目をとめられたのかもしれない。「いいわねえ、素的ねえ」といわれて、「少し時間をいただけば、、、、、、」ということになってしまったというのだ。
 それからが大変。
 まず、バッグ用の生地や必要な付属品や台紙に貼る裏地などをさがし集めて準備をする。寸法を測り何度も何度も確認し、やっと糊付けができたのは、2週間は過ぎた頃。それでも、ここまでは、ゆっくりながら前進していたのだけれど、ミシンに向かって立ち往生なのだ。
 あんなにいろいろなものを作って楽しみ、厚いものも縫えるようにと新しい機種に変えて喜んでいた愛用のミシン。
 「これは、どうすればいいの?」
 「私にいってもだめでしょう?」
 「でも、あんたが教えてくれなくちゃあ」と母。
 どうして、私が母にミシンの使い方を教えねばならなくなったんだ。途方にくれた。
 そこへ、従妹の泰ちゃんが来てくれなかったら、どうなっていただろう。最後は泰ちゃんの尽力でおさまりはしたが、私はずっと気が気でなかった。いつになるだろう?うまくいくかしら?と。
 お蔭様で、出来上がった筆入れ袋は、とても美しいものだった。
 あれから1ヶ月たっていた。
 「夏休みの宿題、出来たねえ、よかった」と私。
 「おかげさまで、ありがとうございました」と苦笑している母。
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