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女友だち ときにはしみじみ、ときには抱腹絶倒する女の友情をめぐるエッセイです。
銀婚式

 Yは、「一流大学」の教授である。
 仲間内では一番若く、最年長の私とは十歳も離れている。ほっそりと可憐で甘えんぼで、サルのように敏捷で、よく落ち込むYは、どうみても大学院で研究者を育てている「厳しいと評判の先生」には見えない。仲間内ではいつも「末っ子」扱いである。
 が、最近、あれっと思うことがでてきた。例えば、電話をすると、
 「キムラさん? ああ」
 と、ちょっと間を置いた無感動な声が返ってくる。
 大学人事や学位論文の指導や外国での集中講義の準備やらで忙殺されている時に、とっくに提出期限の過ぎた論文の締切日を聞いてくる極楽トンボ、をあしらう体の声である。
 「大学の先生モード」から「末っ子・友だちモード」への切り替えがうまくできないのだろう。いかに掛け持ち非常勤時代からの旧知とは言え、いつまでもYの社会的地位を配慮しない仲間のノーテンキに時に苛立つ、といったところか。
 そんなわけで、何とはない遠慮が出てきた。放っておけば不満がくすぶって、気の置けない関係にひびが入る。
 それではまずい。Yさんと呼ぶと混入してくる、そんな気分の芽を摘みたいと思った一人が、ふと「Yっち」と呼んでみた。私たちの馴染んだ「末っ子」キャラクターぴったりである。
 不思議なもので、それでぎくしゃくしかけた関係が息を吹き返した。呼び名の使い分けで、お互いの気持ちの切り替えがしやすくなったのだ。
 さて、四人仲間恒例の一泊旅行。
 元気になった「Yっち」は大車輪で旅行の幹事を引き受け、一万円の割引で一室だけ空いていた高級旅館を予約した。そして当日案内されたのは「旅館の事情」とかでVIP用の特別室。
 床の間つき一四畳に、八畳の次の間、畳廊下に椅子テーブルつきの広縁、石畳の玄関に温泉浴室。一枚ガラスの窓からは溢れるような緑と湖の眺望。
 食欲がなかった筈の「Yっち」は、鼻高々で夕食も朝食もお代わりした。
 天与の大名旅行を楽しんで、気がつけば今年は友達歴二五年の「銀婚式」。
 忘れられない夏になった。

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