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女友だち ときにはしみじみ、ときには抱腹絶倒する女の友情をめぐるエッセイです。
食後の薬

 「どうする、お水もらう?」
 え、何のこと? とSの顔を見た。
 食後のおしゃべりも一段落して、でもまだ湯飲みにはたっぷりのお茶が残っている。
 「お茶で飲んじゃう?」
 と、言葉を継ぐSの手元には薬のカプセルがある。そうか、と、私も慌ててバッグを探った。
 Sは降圧剤、私はステロイドの副作用どめの胃薬。
 誰でも食後は薬を飲むものと決めてかかっているSの態度に苦笑したが、そういえば、カナダ映画『森の中の淑女たち』にもそんなシーンがあった。
 バスハイクの途中でバスが故障して、六人の高齢の女性が湖畔の廃屋で何日かを過ごすことになる。弁当の残りを分け合って食べ、寝床をつくり、魚や蛙を採り、救助信号を工夫したりして、休暇と遭難が一体になったような日々。乏しい食事の後で、全員がごそごそとバッグを探り、誰かが回した水筒の水で、私は利尿剤、私は血圧、私は心臓の薬などと言いながら、それぞれの持病の薬を飲むのである。
 誰もが体のどこかに慢性的な不調を抱えて、薬を飲み飲み暮らしている。病気を治すために、ではなく、あちこち故障の増えた体でそれなりの生活を維持するために飲みつづける薬。今にして思えば、彼女たちの状況が一目でわかる場面だった。
 若いつもりの私たちの足元にも、そんな老いの現実が忍び寄っていたのかと愕然とし、学生時代からの友の顔をつくづくと見直してしまった。
 『森の中の淑女たち』は、友を得て輝きを取り戻す女たちの映画である。
 救助を待ちながら、問わず語りに自分を語り、仲間の話に耳を傾ける。同じ時代を生きた女たちの、人生に降り積もった心のつかえ、寂しさ、年齢との闘い。心を通わせることで癒され、悩みをうち明けることで生きる意欲を刺激され、一緒に夜空を眺めて「月がきれい」「美しい夜ね」と言い合うことでどんなに心が満たされるか。
 赤信号みんなで渡れば……ではないが、一緒に年をとる友がいれば老いも怖くないと思えてくる。友だちは、年経るごとに大切になってくるようだ。

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