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国際社会の現在(いま)―ジェンダー視点から
【3】ほどよく「おかしな人」と思われるにはどうしたらよいかという話
  (10.10.15)

研究会の飲み会で、他大学に勤める中堅どころの男性の先輩と話していた。
大学で雑用を押しつけられないようにするにはどのようにしたらよいか、という話である。

わたしが提案したのは、「あの人に仕事を任せたら大変なことになる」と思われるような、奇抜な発言をすることであった。

たとえば、特大の金のシャチホコを各校舎の屋上に据えつけましょう、と教授会で提案する。
べつに名古屋の大学でも、シャチホコにゆかりのある大学でもないのに、である。
周囲はおそらく引くだろう。

それではダメだ、と先輩。
かつて先輩は、周囲におかしな人と思わせるために、校舎の最上階を「回る展望台」に改造しようと教授会で提案したそうだ。
すると、「いいアイディアですなぁ」「さすが若い人の発想は違いますね」と、長老たちの絶賛をあびてしまった。
実現にはいたらなかったが、先輩の計画「周囲におかしな人と思わせる」は頓挫した。

言葉でダメなら、奇抜な行動ではどうかと、わたしが次にひねり出したのが、腹話術の人形を手に教授会に出席するという案である。

腹話術を習得し、あたかも人形がしゃべっているかのように発言する。
「ボク、ショウチャンです! ○○教授の案は陳腐ダヨ!」
批判をしても会議室の空気がギスギスすることはなく、かといって「まともな人」とは決して見られないだろうから、こちらの思惑どおりにコトは動き、八方丸くおさまる。
これ以上ない理想的な案であるように思われた。

だが、先輩の賛同は得られなかった。
それはやりすぎだというのである。退職に追いこまれるかもしれないという。

けっきょく、奇抜な言動ではダメで、奇抜な服装が無難だろうという結論におちついた(奇抜な服装が無難、という日本語もヘンだが)。

奇抜な言動は、受け手の感性しだいで、「いいアイディア」にも「やりすぎ」にもなってしまう。
だが、服装にかんしてはTPOという一定のルールがある。おかげで、やりすぎない、ほどよいルール違反ができる。
なおかつ、退職に追いこまれることはない。服装を理由に退職させようものなら、大学側が人権侵害の罪に問われかねないからである。

なにかの修行中の人のように、タオルをかぶって、作務衣で出席する。
あるいは、マジシャンの格好をし、シルクハットをかぶって出席する。
シルクハットの中からは「クックー」と押し殺したような鳴き声がする。あきらかにハトが入っているのだが、決してシルクハットは取らない。

「おかしな人」のレッテルは確実に頂戴できる。退職の憂いもない。
今のところ出ている最強の案である。

その流れで、かつて教授会でわたしがした発言について話した。
学生の私語防止のために、ある博多ラーメン店の座席の仕様を教室に導入しようと提案したのである。

その店では、客が味に集中できるよう、カウンターの座席と座席の間を板で仕切っている。
隣の席の人とは話せない仕組みだ。
それと同じように、教室の座席と座席も板によって仕切れば、私語を防止することができ、学生を授業に集中させられる、と熱く語った。

「ま、それをやると、フーコーが『監獄の誕生』の口絵で取りあげたフレーヌ監獄における講義の様子にかぎりなく似てくるんですけどね」
と、ちょっと教養のあるところを見せるのも忘れなかった。

が、わたしの熱い語り口とはうらはらに、会議室は静かになってしまった。

「なぜだか分からないんですよ。いいアイディアなのに」
そこまで話し終えると、ビールジョッキを手にした先輩の表情には困惑の色が浮かんでいた。

なぜだか分からない。いいアイディアなのに。
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