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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
ジョナサン・トーゴヴニク『ルワンダ ジェノサイドから生まれて』赤々舎 2010年

 真っ直ぐカメラを見据えた母子の写真。いずれの写真も美しい。しかし,母も子も誰ひとり笑っていない。写真だけめくっていっても,重苦しい悲しみに胸が苦しくなる。
 本著は,ルワンダのジェノサイドで強姦された女性たちと,その結果として生まれた子どもたちの写真と,女性たちへのインタビューをまとめたものだ。
 トーゴヴニクは,2006年,写真家として,ルワンダでHIVの取材の際に,一人の女性と会う。ジェノサイドの際,その女性の家族全員が殺された。そして女性自身は何度も性的暴力を受けた結果,妊娠し男の子を産んだ。このインタビューで衝撃を受けたトーゴヴニクは,同じような境遇の女性たちを記録し国際社会に伝えることを,自己の使命とし,3年間ルワンダへ通い,本著を発表した。
 30人の女性たちから語られる,フツの民兵が行った行為の残虐さは,想像を絶する。隣人,友人が,一夜のうちに殺人者・強姦犯になった。凄まじい被害を生き延びた女性たちはケアもされず,経済的援助もなく,子どもと放置されている。
 兄弟や息子,父を残虐に殺した殺人者たちに,女性たちは強姦された。「誰にも暴行されずに夜が明けたときは,驚きでした。」「ジャングルに身を隠していたとき,私は藪の中で,小さなクマのそばで暮しました。そのクマは私を傷つけませんでした。しかしジャングルから出ると,民兵たちに鉈で切りつけられました。」
 ところが,ツチの人々も,彼女たちを迎えようとしない。彼女たちは現在もなお二次被害と偏見にも苦しんでいる。「フツの赤ん坊を抱えて家に入るなと言って,追い払われました。」「夫は,この子を殺そうと言いだしました。赤ん坊を壁に叩きつけました。」「私の家族は息子を見るたびに,この子の親類が私の家族を,私の父を殺したと言うのです。」
 母親が子を愛せない。しかし,彼女たちをどうして責められるだろうか。「私は,この子を決して愛してはいません。母親がこんなふうに言うなんてひどいということもわかっています。」「私の愛は引き裂かれています。しかし次女に罪はないということを,私はゆっくり理解し始めています。」しかし,子どもを「私の命です。」「賜物,慰め」と言うことができる女性たちもいる。「出産してみると,息子はとても美しかったので,私は自分のなかに即座に愛が芽生えるのを感じました。そして自分に言い聞かせたのです。『この子を殺せない。愛そう』」
 多くの女性が,被害によりエイズにかかっていて,自分の死後を案じている。「絶望すれば,早く死にます。でも,勇気を求めれば,進んでいける。それが私の選択です。」「私がこの世で苦しい時期にそうであったように,辛抱強くありなさい。」
 しかし,女性たちの覚悟だけではどうにもならない。トーゴヴニクは写真家としての使命を超えて,ジェノサイド時の強姦から生まれた子どもたちに中等教育をするための「ルワンダ財団」を立ち上げた。同財団は女性への医療や精神的ケアの支援や,ジェノサイドや性的暴力に関する意識向上のための活動にも取り組んでいるという。被害を記録し報道することも,貴重だが,それにとどまらず,救済活動にも取り組み始めた著者に感服する。
 本著は,壮絶な経験の記憶を残す貴重な文献である。インタビューに応じること自体,どれほど苛酷だったろうか。しかし,その意義を理解し,応じた女性たちにも,敬意を表したい。そして,女性たちにも,子どもたちにも,少しでもより良い明日が待っていることを願う。(良)
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