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清末愛砂『母と子でみるA45 パレスチナ 非暴力で占領に立ち向かう』草の根出版会 2006年

 本著は,このgender and lawでもエッセイを執筆してくださっている清末愛砂さんによる,占領下におかれたパレスチナの人々が難民となった苛酷な経験と現在もなお続く想像を絶する状況についてのレポートである。
 清末さんは,イギリスの大学院に留学中の2000年末から,パレスチナを度々訪問し,占領の実態を自分自身で経験してきた。2002年から,パレスチナの非暴力による抵抗運動「国際連帯運動」に参加する。同運動の活動は,日々の占領の状況に応じて変わるが,主には,イスラエル軍が暫定自治区内に無数に設置した検問所における人権侵害を監視し,介入すること,検問所を通行したいパレスチナ人のためにイスラエル兵と交渉すること,パレスチナ人の移動を制限するためにイスラエル兵が封鎖した道路のブロックを取り除くこと,イスラエル軍によって家屋破壊の被害を受ける可能性があるパレスチナ人の家に泊まり込み家屋破壊を防ぐこと,人権侵害に抗議するデモを地元グループと共同して行うこと,である。日本では考えられないような恐怖を覚える占領下で,これらの活動を実践することは,どれだけ勇気が必要だろうか。本著で具体的に綴られたこれらの活動の詳細を読むと,活動に関わる清末さんらの勇気に一層敬意を抱く。
 清末さんたちは,非暴力のトレーニングを受け使命感を持って取り組みながらも,超人でもなんでもなく,やはり恐怖を覚えながら活動をしている。イスラエルの首相による大規模軍事作戦が発表される中,連帯運動の活動家たちも,やはり緊張する。
 占領下,毎晩のように攻撃され,いつ死ぬかわからないという状況で生きざるを得ないということは,どんなことだろうか。印象的なエピソードがいくつもある。活動の一環として宿泊した民家で,清末さんは子どもたちに「将来は何をしたいの?」と聞く。子どもたちは,一斉に「将来?そんなものないよ。」と言った。攻撃にさらされている子どもたちにとって,何と残酷な質問だったろうかと清末さんは愕然とする。その日,寝に就くときに,清末さんは「空爆されたら」と不安を募らせる。すると,「将来?そんなものないよ。」と言った女の子がやってきて,「怖くて寝ることができないでしょ。」と言いながら,学校の英語の教科書「千夜一夜物語」を貸してくれる。攻撃のターゲットになっているのは,清末さんではなく,女の子やその家族なのだ。それなのに,むしろ清末さんを思い遣り,慰めてくれたのだ。千夜一夜物語の主人公のように,女の子に生き延びてほしいと切に願う。
 清末さんは,日本のマスメディアが,わざわざ「テロ」あるいは「暴力の連鎖」と言う言葉を安易に使うことを批判する。日本では,なぜ子どもたちが投石するのかを問われることは少ない。あるいは,なぜ自らの身体を吹き飛ばしてまで,自爆攻撃する状況に置かれているのか,その根本的な原因と詳細が報道されることは少ない。「暴力の連鎖」という言葉は,あたかも対等な立場にある両者が攻撃しあっているという誤解を生じさせる。占領者と被占領者としての明確な立場の違いを無視した報道には,舌打ちしたくなるという。その圧倒的な立場の違い,被占領者としてのパレスチナの無残な状況を詳しく記述した本著は,多くの人に読まれるべきである。
 本著は,「母と子でみる愛と平和の図書館」シリーズの一作であるがゆえ,題名に「母と子でみる」と付されているが,そのため読者を狭めるようで残念である。そして,既に出版社が破産したために,本著が入手困難になっているのは,残念でならない。パレスチナの人々が人間であることを否定されているかのような状況を知ることのできる貴重な一冊であり,何らかの形で再び世に出して頂きたいと願う。(良)
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