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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
大野更紗『困ってるひと』ポプラ文庫 2012年

 福島のムーミン谷(のどかなド田舎山間の集落が福島第一原発事故後避難ラインぎりぎりになりはからずも有名になってしまった…)で育ち,9.11後の世界に嫌気がさし「フランスかっこよさそう」と上智大学仏語学科に入学するも、ビルマ難民に出会い,軍事政権という悪と闘わなければいけないという正義感使命感にかられ,民主化や難民支援のNGOの活動や研究に邁進。難民キャンプやタイビルマの国境もどんどん分け行った。樋口陽一先生の追っかけもしたというミーハーというにはかなりコアな人権派女子,人一倍活動的で「困ってるひと」を助けたいという正義感に満ち,将来もまた活き活きとした活躍を自他ともに期待していた…。
 ところが,そんな彼女が,突然,免疫システムが勝手に暴走する難病(筋膜炎脂肪織炎症候群)にかかってしまった。その病状を抑え込むステロイド等の副作用にも付き合わざるを得なくなった。大変な痛み,熱,倦怠感に始終耐える。意欲を持っていた様々な活動も中断,それどころか,ひとつひとつの動作が苦痛であり,日常的な活動すらままならない状態へ。お涙頂戴の「闘病記」にしようと思えばできそうだ。しかし,更紗さんは,「この本は,いわゆる「闘病記」ではない。」と書く。ウェットに書き続けるスタイルを選ばない。それでも,「絶望は,しない」と決めているからと。そのへんを通行するぐったり疲れ切った顔のオジサン,ケータイをピコピコしながら横列歩行する女学生を抱きしめて,「だいじょうぶだから!」と叫びたい気持ちにあふれている。「おしり有袋類」になってしまうなど(このくだりは読むのも耐えがたく,更紗さんはどんなに大変だったかと涙してしまう話だが,こんなネーミングをして読者に(笑)を誘うなんて,サービス精神どんだけ…とまた涙),いやすごいことが多々ある,そんなことあんなことひっくるめて,更紗さんは,「人生は,アメイジングだ」といってみる。自分自身に言い聞かせるように。
 難病に苦しんでいるとは思えないほどのハジけた軽薄な文体は,数頁のボリュームならまあさらりと読めるが,一冊分となると意外についていけない。正直厭きてくる。でも,こんな文体でなければ,彼女が避けたいであろう深刻な「闘病記」になってしまいそう。だからまあ多少ハナにつくけど,OK!
 そう,書くことで,更紗さん自身がまず救われているように思う。とてつもない苦痛,孤独感,絶望感。鬱になったとあるが,さもありなん。でも,難病当事者になったからこそ体験できる様々な事をフィールドワーク,書いてみることで,ツッコミをいれ,茶化し,客観的な観察者になることで,自分の苦しみに埋もれないでいられるのだ。研究者としてフィールドワークのアプローチを身につけていたことが,活きているのかも。更紗さんにフィールドワークのアプローチと文章を書く能力があって良かったと心から思う。
 更紗さんの観察,批評能力は,他者にも向かう。一時は「救世主」と思えた主治医たちも,当然のことながら,ふつうの人間。鈍感なところもあるし(励ましのつもりで「普通に結婚して子どもももてるよ」と言ってしまう),残酷な言動もときにはしてしまう(更紗さんに聴こえていないと思って,デートへ行っていたことを嘲笑う)。妙に頑張ることが偉いという考えで,福祉のお世話になることなど潔しとしない心情の医師もいる。命綱の主治医とも「倦怠期」になることもある。優しい友人も疲弊していつまでもその好意が尽きないわけではない。深刻な面持ちで,「いろんなひとの,負担になっていると思う」と言われてしまう。でも,更紗さんは,他者をも非難,弾劾するのではなく,あくまで,冷静に,なるほどと受けとめる。感謝も抱いている。そこが偉い。
 その上で,従順な患者の役は引き受けず,着々と障害者手帳を入手し,福祉の援助を受けながらの自立を目指していく(そう,福祉に依存していたって,自立だ,立派な自立だと私も更紗さんに賛成。)。並々ならぬ困難を乗り越えて,退院し,通院可能な…難病患者でも通院可能なところで一人暮らしまで敢行する。そのくだりはまるで青春小説,いや冒険小説か。何で一人暮らし?「あの人」とデートしたいという乙女心からだ。「あの人」との引っ越し作業,初恋物語のようでドキドキする。
 本当は,ひとつひとつの動作も大変なほどで,生きていくこと自体がとんでもなくしんどい。それでも,アメイジングな人生を「絶賛生存中」の更紗さん,「頑張れ」なんてとてもいえない,もうすでに涙が出るほど頑張っているのだから。ただ,そっと肩をハグしてあげたい。そして,私自身,一日一日大切に生きたいと素直に思う。(良)
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