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打越さく良「なぜ妻は突然、離婚を切り出すのか」祥伝社新書 2016年

 30ページくらいを過ぎるころから、顔面蒼白になってきた。絶対に似ている!これは私が最近個人的に相談を受けた例にそっくりだ。相談といっても時々電話やメールが来る程度で、愚痴の聞き役といったところなのだが。
 知人には、小学生と幼稚園の2人の子がいて妻は専業主婦。幸福な家庭だと思っていたのに、突然妻が二人の子を連れて実家に帰ってしまい、追って代理人から離婚調停を申請したとの文書が来た。「晴天の霹靂」とはこういうことだ。
 驚いた知人はまず代理人とではなく直接妻と話し合おうとして何回もメールを打つ。しかし「代理人を通して話をしてください」という返事が来て以来、受信を拒否されてしまった。なぜなんだ?彼は一生懸命自分の生活をふりかえった。「DVもしたことないし、子どもも十分かわいがっている。長男を私立の小学校に入れるために受験勉強も手伝ったし、決して安くない授業料を負担し、水泳と英語を習わせ、長女にはピアノとバレーを習わせている。長期の休みには一家で海外旅行だってした」。それなのにこの仕打ち!納得のいかない知人は昔取った杵柄で離婚に関する本を読み漁る。
 「夫婦には同居義務があるのに一方的にそれを破った妻は同居義務違反ではないか」「結婚している間は共同親権者なのだから、当然子どもと自由に会えるはず。一方的に子どもを連れ去って、一切会わせないというのは連れ去り得ではないか」「子どもと会わせないなら生活費は支払わない」「子どもの幸せを第一に考えるのなら経済力のない妻が引き取るべきではない」…妻も子どももいないがらんとした部屋で離婚の解説書や経験談を読んでいるとパニックになりそうだ。「どうしてこんな不幸な目にあうのだろう?!第一、みっともなくて職場にも友人にも言えない!」
 そんなときに知人は私のことを思い出したらしい。妻が出ていって3か月。調停がはじまろうとしていた。まず暴力がなかったかを聞いたが「絶対にない」という。子どもに会いたいあまり学校のそばで陰ながら長男を見に行ったことがあるという。「とてもやせていた。妻の母が厳しいにちがいない」。
 しかし、代理人の書いた妻の申立てによると「大声で怒鳴られたのはしばしば」「夫が自分の出身校に子どもを入れたくて無理して受験させた」「夫による厳しい受験指導で長男は父親を怖がっている」などと書かれていたという。夫が自分を見る目と妻が夫を見る目とは全く違うということだが、知人は何も知らない代理人の作文にすぎないと言う。
 知人の場合、離婚が調停で決着するとは思えない。長期戦になりそうだが、彼は成長盛りの子どもに会えないことが一番つらくてイリイリしている。「学校の帰りに家に連れてきたい。妻が一方的に連れ去ったんだから連れ戻すのは当然」「第三者機関立会いの下での面会なんて、なんで自分の子に会うのにお金がかかるんだ」と私にまで怒りまくる。相談相手であるはずの私にもガンガンいうくらいだから家庭ではきっと自分は怒っているわけでなく正義を述べているつもりで言いつのったに違いない。

 数々の離婚調停や裁判にかかわった弁護士による本書を読むとこういうケースはかなりあってもちろんそれはそれぞれの事情があるから簡単にくくることはできないだろうが、一定のパターンがあることがわかる。
 知人の場合、本書のオビの後ろにある自己点検項目のいくつにあてはまるだろうか?自己の認識と妻の認識が全く違う、それはなぜかに気がつくだろうか?これからこの知人に本書をすすめてもおそすぎることはないだろうか?
 「婚姻費用には子どももための費用も含まれていることは自明のこと。それでも、支払いを先送りにするとしたら、『妻子を大切に想っている』『修復したい』などと主張しても、白々しいと思われてしまいます」(p.155)。ビシッ!
 「(妻に手紙を書くのもいいが)あまりに自己陶酔した文章で、かつ何枚にも及ぶものなど、かえってうんざりさせたり、脅威を感じさせたりする可能性があります」(p.202)。バシッ!
 「頭に血が上って、妻に対し、『勝負だ、勝つか負けるか』と決戦に臨むかのような態度で挑まないように」(p.207)。ビシッ!
 回りくどくなくビシバシと決まってくる直球がすばらしい。
 一家に1冊(もしかすると夫と妻に1冊ずつで2冊)本書を。(巳)
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