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本澤巳代子編著『家族のための総合政策W 家族内の虐待・暴力と貧困』信山社 2017年

 家族のための総合政策の第4巻である本著には、家庭内の虐待・暴力と貧困問題を各国の虐待・暴力に関する法制度を概観し、困難な状態にある女性と子どもの問題に対する諸政策を取り上げる諸論文が収められている。
 本澤巳代子による第1章「日本の家族政策における虐待暴力と貧困」が指摘するように、日本社会には、戦前の家制度の因習の名残が部分的に残っており、その影響が家族法や社会保障法にも見られる一方、少子高齢化が進展する状況で、性別役割分業は解消せず、正規・非正規など労働条件格差は埋まらず、女性の貧困や母子家庭の貧困の原因ともなっている。それはまた、DVや虐待の増加にも影響を及ぼしている。他方で、戦後の家族関係や国家体制の根幹をなす日本国憲法の改正が唱えられるなど、家制度の被害者である女性・子どもらの尊厳が否定される戦前の社会に後戻りかねない動きが見られる。先進国では女性や子どもの主体性を尊重する動きや、多様な関係を認めていこうという流れになっているにもかかわらず、日本は特定の家族像を念頭にした方向を目指しているようである。2012年に公表された自民党改憲草案24条1項(新設)は、特定の家族観を前提に、多様性を否定するものである、と本澤は指摘する。なお、なんとこのくだりで、私(打越)も呼びかけ人になっている24条変えさせないキャンペーンを注で紹介されていて、大いに励まされた。
 第2章から第6章まで、各国の虐待・暴行に関する法制度が概観される(韓国、中国、イギリス、ドイツ)。第7章以下は、精神医学・社会福祉学・教育学の観点から、虐待・暴力の予防、被害者救済、加害者矯正などに関する論稿が収められている。
 橋爪幸代による第4章「イギリスにおける虐待・暴力に対する法制度」によれば、イングランド及びウェールズにおいては、警察や治安判事が即時的に保護命令を出す権限があるという。また、DV支援専門員がいて、手続を迅速にとることのほか、長期的な支援もすること、あるいは、近親者からの暴力を受けるおそれにさらされている場合、少なくとも長期的な接近禁止命令を得るまで、当局は、その家族を支援する義務と責任があり、安全で適切な住居を提供する責務がある、ということだが、日本にも大いに参考になる。
 精神科医の森田展明による第7章の「ドメスティックバイオレンス被害が母子に与える影響とその援助」は、DVがある家庭から逃げた母子にとって、その後も続く裁判過程とくに面会交流が大きな負担となっているとする。精神科医として母子の回復支援をする際に、子が加害者と接触することで、心理的ダメ-ジを負いいったん回復しかけた症状が再燃したりすることもある。子どもの権利を守るといって、子どもがダメ?ジを負ってしまうことは本末転倒ではないか、と森田は言う。
 和田一郎による第8章「子どもの成長リスクの予防と虐待支援」は、日本ではじめて子どもの虐待の社会的コストを示したものだという。しかし、虐待の被害を長期的に測定するシステムが全くない日本では、そもそも基礎となるデータが十分ではなく、限界がある。そのため過小評価になったということだが、それでも2012年度の子ども虐待による日本の社会的コストは、1.6兆円に及ぶということである。虐待や貧困対策が解決すべき課題であるならば(そしてそのことは誰もが認めるだろう)、まずはしっかりとしたデータを踏まえて対策をたてねばならないのに、なんと後手後手なことだろう。
 子どもの権利保障のための国家の責務と支援策について欧州4カ国(ドイツ、フランス、イタリア、スウェーデン)を比較した、エーファ・マリア・ホーネルライン(本澤訳)による第12章「国家の任務としての欧州における子どもの権利保障と支援」も、各国の政策の重点の違いなど、興味深い。なお、いずれの国も、日本において自民党が提出を予定しているという家庭教育支援法案のように、家庭に「教育」の責任を課すのではなく、母性保護や貧困家庭の支援など、社会福祉的な「支援」の在り方を模索しているもので、同法案とは全く方向性が異なる。
 家庭内の日本では家族政策と明言した政策体系はなく、家族に関する政策は、経済政策、労働政策、社会政策、教育政策、人口政策など、多様な分野の政策の中に含まれている。その分析には、多角的で総合的なアプローチが必要であり、本著はその果敢な試みであり、立法担当者、政策立案者、支援者その他に非常に参考になる。7,600円+消費税という価格に一瞬「うっ」とうめきそうになるが、読めばその価格以上の価値があるとわかるはずである。(良)
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