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阿古真理『うちのご飯の60年 祖母・母・娘の食卓』筑摩書房 2009年

 著者(1968年生まれ)とその母(1939年生まれ),祖母(1903年生まれ)の三代の女性が作り食べてきたものを軸に,暮らしの歴史を描いた著書である。しかし,個人史にとどまらず,多数の参考文献をもとに,食生活の急激な変化,その背景にある政治経済,女性の生き方など,社会の変化,価値観の変化をも,リアルに浮かびあがらせている。
 祖母は,山村で,土間の台所で,保存食を作り,一汁一食の日常食を準備した。11人の子だくさんで,本当は女学校へ行きたかったが行けなかった思いがあり,娘たちを高校へ進学させた。村中で年中行事に盛り上がり,そのときばかりは御馳走だが,全て手作りだった。自給自足で,子どもたちは田植え,野菜の収穫,山菜・きのこ採り,家事等を手伝った。
 母はサラリーマンの父と結婚し,都市郊外の一軒家に住み,専業主婦として父を支えた。料理本や主婦雑誌を手本にして,ハンバーグ,カレー,コロッケなど洋食を作り,サラダを作った。家庭料理は,洋食,中華,和食とバラエティ豊かになり,家電製品,調理器具や食器があふれ,主婦たちは「収納場所」に困るようになる。土間は消え去り,システムキッチンが普及していく。専業主婦の傍らで,子どもの手伝いは必須ではなくなる。なおも時間が残る主婦,そして子どもたちの間で,お菓子作りが流行る。その一方,スナック菓子もどんどん消費されるようになる。
 そして著者が大学生であったバブルの時代の前後から,外食が隆盛を極める。ファミレスやファストフードのようなチェーン店の拡大,さらにイタリアン,フレンチ,エスニック等,グルメブームが次々到来する。
 現在,著者は夫とともにフリーで家で働く。著者自身,「妻が主婦」という感覚を捨てきれないが,長く一人暮らしをしてきた夫も煮物等料理を当然のように作る。女性の職場進出等を背景に,便利な冷凍食品や加工食品が普及し、惣菜等「中食」も市場として認知されるようになる。一方,残留農薬や添加物の危険等食の安全性への意識も高まり,有機・無農薬にこだわった宅配や自然食品店も増えている。
 評者と著者は同世代であり,都市郊外で暮らすサラリーマン家庭の娘として育った点も共通し,本書で描かれた食生活の歴史の一部は,私もリアルタイムで目の当たりにしたもので,懐かしい。自然食にこだわりつつも,外食を楽しみ,中食で息抜きをすることもよしとする感覚も同感だ。
 今後も,食生活や女性の生き方は変化していくことだろう。楽しみである。
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