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わがまま読書 独断と偏見に満ちたこむずかしくない読書案内です。教科書からマンガまで。
穂積『式の前日』小学館 2012年

 「胸のずっと奥のほうに沁みる,泣けるよみきり6編」…な,なんて陳腐な宣伝文句。物事をナナメにみたい私としては,帯に踊るこの文句で思いっきりひいてしまったが,とりあえず読み始めた。…読了…いや,白状する。本当に,胸のずっと奥のほうに沁み,泣けてならなかった。
 表題作「式の前日」ほか,気の抜けた笑いを誘いつつも,淡々と進む。間のとりかたも絶妙。しかし,終わりにぐっとくる展開が。たとえば「式の前日」は…と話したくなるが,礼儀としてネタバレは控えよう。
 どの作品にも,かけがえのない関係,その終わり・別れ(死が究極)が切実に描かれる。結婚はパートナーとの新たな生活のスタートである反面,姉弟,兄妹のそれまでの密接な関係の終わりでもある。祝いながらも,切ない。死ほどの決定的な別離でなくても,そのような旅立ちの切なさを描き出すのが巧い。それも,一瞬のシーンの描写で,登場人物同士のそれまでの大切な長い歳月を想起させるのが,見事。
 一方,淡々とした観察者の目もある。最後の「それから」に出てくる猫が語る。「死のうが生まれようがさして差異はない。自然の理に過ぎんがな」。でも,「人間は不可思議な生き物」,愛する者の死を嘆き,新たな命の誕生を喜ぶ。束の間だけれども―だからこそというべきか,人と人とのかけがえのない関係が,鮮やかに描き出され,胸がいっぱいになる。
 少女マンガは,かつては「少女マンガみたい」などと下らないものの典型のように目されていた(随分昔の話かも)。しかし,ここまで優れた表現が可能な媒体になったとは。感銘を受けしばしぼーっとしてしまうこの短編集は,少女マンガというジャンルのひとつの到達点といえるだろう。(良)
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